クリニックからのお知らせ
そのおりもの、カンジダ?それとも細菌性膣症?— 顕微鏡で「見て確かめる」診断の話
おりもの(帯下)が変だな、と思ったとき、多くの方がまず心配するのは「性病かな」ということではないでしょうか。もちろんその可能性は否定できません。ただ、実際に診察してみると、性感染症ではなく外陰腟カンジダ症や細菌性膣症(Bacterial Vaginosis, BV)が原因であることも非常に多いのです。
ただ——これがなかなか難しいのです。問診だけでは区別しにくいし、「カンジダっぽい」と思っていたら細菌性膣症だった、あるいはその両方だった、ということも珍しくありません。さらに言えば、細菌性膣症があると淋菌やクラミジアなど他の性感染症を合併しやすいこともわかっています。だから、おりものの異常を「まあカンジダかな」と安易に処理してしまうのは、実はあまりよくない。
今回は、カンジダと細菌性膣症をどうやって診断するのか、当院がどんな検査を行っているのか、そして「なぜそれが大事なのか」について、書いてみようと思います。
おりものが変わった——その「変化」の正体は?
まず基本的なことからです。帯下(おりもの)とは、膣や子宮から分泌される液体のことです。通常は乳白色〜透明で、さらっとした感じ。量や状態は月経周期によっても変わりますし、個人差も大きいです。ちょうど鼻水に似ていて、正常なときは透明でサラサラしているのに、何か感染が起きると色や粘性が変わってきます。
問診では主に以下を確認します:
- 色(白・黄・灰色・緑がかっているか)
- 性状(水様・粘稠・ヨーグルト状・泡状など)
- 臭い(無臭・酸っぱい・魚臭い)
- かゆみや灼熱感の有無
- 最終性交渉の相手・方法・コンドーム使用の有無
ただ正直なところ、症状の組み合わせだけで診断を確定するのはかなり難しい。カンジダの典型像はカッテージチーズ状の白いおりものにかゆみですし、細菌性膣症の典型像は魚臭い灰白色のおりものですが、教科書通りの症状が揃う患者さんはむしろ少数派です。
まずpH試験紙で「酸性度」を調べる
診察室でまず行うのが、膣分泌物のpH測定です。これは文字通り、酸性かアルカリ性かを調べるもの。当院ではADVANTEC社のpH試験紙(pH 3.4〜6.4対応)を使っています。
正常な膣内はpH 3.8〜4.5の強酸性環境で、これは乳酸桿菌(Lactobacillus属)が産生する乳酸によって維持されています。この酸性環境が雑菌の繁殖を防いでいるわけです。
| 疾患 | 膣内pH |
|---|---|
| 正常 | 3.8〜4.5 |
| 外陰腟カンジダ症 | ≦4.5(正常範囲内のことが多い) |
| 細菌性膣症 | >4.5(多くは5〜6台) |
| 膣トリコモナス | >4.5 |
つまり、pH試験紙をぺたっと当てるだけで、ある程度の方向性が見えてくる。pH > 4.5 ならカンジダより細菌性膣症やトリコモナスの可能性が高いということになります。試験紙の色が、ヨーグルトに近い黄色っぽい色合いのままなら正常範囲。青みがかってきたら、アルカリ側に傾いているサインです。
これだけで診断はできませんが、次の検査に進む判断材料として非常に有用です。
Whiffテスト——においで分かること
pH測定と並んで行うのがWhiffテスト(アミン臭試験)です。
やり方はシンプルで、採取した分泌物に10% KOH液(水酸化カリウム液)を1〜2滴垂らして、においを嗅ぎます。細菌性膣症に特徴的な魚のような生臭いにおい——これはアミン類(プトレシン・カダベリンなど)によるもの——が立ち上れば陽性です。
細菌性膣症の診断基準として世界的に使われているのがAmsel基準で、以下の4項目のうち3項目以上を満たすとBVと診断します[1]。
- 均質で灰白色のおりもの
- pH > 4.5
- Whiffテスト陽性
- 顕微鏡でclue cells(手がかり細胞)を確認
このうち最後の「clue cells」が、顕微鏡診断の核心になります。
顕微鏡で「直接見る」——グラム染色による診断
ここからが、当院が特にこだわっているところです。
分泌物を採取して、スライドガラスに塗抹し、顕微鏡で観察する。これは非常に古典的な検査ですが、それゆえに確実性が高い。菌体や細胞を「目で見て確認する」ということの価値は、今でもまったく色あせていません。

まとめ:おりもの異常は「見てわかる」時代へ
おりもの(帯下)の異常は、カンジダなのか細菌性膣症なのか、あるいは性感染症なのか、症状だけで判断するのは非常に難しいです。でも、採取して顕微鏡で見れば、多くの場合は当日中に答えが出ます。
当院では、pH測定・Whiffテスト・グラム染色という一連の検査を院内で完結させることで、同日中の確定診断と適切な治療を実現していきます。性感染症との合併が疑われる場合には、NAAT検査もセットで提案しています。
「なんか変だな」と思ったとき、自己診断や市販薬に頼り続けるより、一度きちんと診てもらう方が、結果的に早く・確実に解決することが多いです。新宿・歌舞伎町という立地柄、プライバシーへの配慮や、仕事帰りの夜間受診にも対応しています。お気軽にご相談ください。
参考文献
- Amsel R, et al. Nonspecific vaginitis. Diagnostic criteria and microbial and epidemiologic associations. Am J Med. 1983;74(1):14–22.
- Sobel JD. Vulvovaginal candidosis. Lancet. 2007;369(9577):1961–1971.
- Nugent RP, Krohn MA, Hillier SL. Reliability of diagnosing bacterial vaginosis is improved by a standardized method of gram stain interpretation. J Clin Microbiol. 1991;29(2):297–301.
- Brotman RM. Vaginal microbiome and sexually transmitted infections: an epidemiologic perspective. J Clin Invest. 2011;121(12):4610–4617.
- Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1–187.