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「あと何日休めばいい?」性病治療後、最短7日で職場復帰するためには…

「あと何日休めばいい?」性病治療後、最短7日で職場復帰するための戦略的ガイド
歌舞伎町の診療室で、私が最も多く受ける質問。それは「痛みはいつ消えますか?」ではありません。
「先生、あと何日我慢したら、お店に出ていいですか?」
これに尽きます。
生活がかかっている患者さんにとって、休業期間は1日でも短くしたいのが本音でしょう。
ネットで検索すると「完治するまで(検査で陰性になるまで)性行為禁止」と書かれており、その期間が「2〜3週間」とある。これを見て絶望している方もいるかもしれません。
しかし、現場の医師として、ひとつの「希望のある事実」をお伝えしたいと思います。
実は医学的なエビデンスに基づけば、「しっかり治療すれば、7日程度で復帰は可能である」という考え方がスタンダードなのです。
今日は、検査結果の数字に振り回されず、最短で日常(仕事)に戻るための「7日ルール」と、その背景にある医学的なロジックについてお話しします。
「検査が陰性になる」のと「治る」のは、タイミングが違う
ここが一番の誤解ポイントであり、多くの患者さんが不安に思う点です。
結論から言うと、「菌が死ぬ(感染力がなくなる)」スピードは、皆さんが思っているよりずっと早いのです。
適切な抗生物質を服用(あるいは点滴)すると、細菌たちは直後からバタバタと死滅していきます。
CDC(米国疾病予防管理センター)などの国際的なガイドラインでも、以下のような基準が一つの目安とされています。
“治療完了後、7日間は性行為を控えるべきである。”
(To minimize transmission, patients should be instructed to abstain from sexual intercourse for 7 days after single-dose therapy or until completion of a 7-day regimen. – CDC Guidelines)
これを逆説的に捉えれば、「治療開始から7日経てば、基本的には感染性は消失しており、社会復帰(性行為)が可能になる」と解釈できます。
つまり、2週間も3週間も、じっと暗い部屋で待つ必要はない可能性が高いのです。
「えっ、でもネットには3週間後に検査しろって書いてありましたよ?」
そう思った方。鋭いです。そこには、現在の高精度すぎる検査技術特有の「落とし穴」があります。
なぜ「治っている」のに検査は「陽性」と出るのか?
7日で菌が死滅し、他人に移すリスクがほぼ無くなっていたとしても、そのタイミングでPCR検査(遺伝子検査)をすると、多くの場合「陽性」と出てしまいます。
これは、検査が失敗しているわけではありません。むしろ検査が優秀すぎるのです。
PCR検査は、菌の「遺伝子(DNA)」を探す検査です。治療によって菌が爆発四散し、死滅したとしても、その「死骸(DNAの破片)」は、しばらく粘膜に残ります。
イメージしてみてください。戦争が終わっても(治療完了)、戦場にはしばらく壊れた戦車や瓦礫(菌の死骸)が残っていますよね?
PCR検査は、上空からその瓦礫を見つけて「敵がいるぞ!(陽性)」と報告してしまっている状態です。
この「死骸」が完全に掃除されて消えるのに、だいたい3週間(時にはそれ以上)かかります。
この期間を医学的に「偽陽性(ぎようせい)」期間と呼びます。
つまり、「検査は陽性だけど、実はもう治っていて、人にも移さない」という期間が、治療後の2〜3週目には存在するのです。
最短復帰のための「賢い治療戦略」
このメカニズムを理解すれば、おのずと「どうすれば最短で復帰できるか」が見えてきます。
重要なのは、「検査で陰性を確認すること」を復帰の条件にするのではなく、「適切な治療を確実に行い、7日間経過させること」をゴールに設定することです。
そのために、当院では以下の戦略を推奨することがあります。
1. 「結果待ち」の時間をなくす(即日同時治療)
検査をして結果が出るまで数日待ち、陽性だったらまた来て薬を飲む…これでは、治療開始(=7日間のカウントダウン開始)が遅れてしまいます。
症状やリスク行為から疑わしい場合、検査をしたその場で治療薬を投与するのが一番の近道です。今日飲めば、今日から「7日間の待機期間」が消化され始めます。
2. クラミジアと淋菌は「セット」で叩く
「クラミジアだけ治療して復帰したら、実は淋菌もいてお客さんに移してしまった」
これが一番怖いパターンです。淋菌とクラミジアは仲が良く、しばしば同時に感染(重複感染)します。
確定診断前であれば、両方の可能性を潰せる薬剤を同時に使うことが、海外のガイドラインでも推奨されていますし、何より「二度手間」を防ぎ、安心して復帰するための保険になります。
復帰後の「お守り」として
もちろん、「7日でOK」といっても、油断は禁物です。
粘膜はまだダメージから回復している途中かもしれません。風邪が治りかけの時に無理をするとぶり返すように、デリケートな時期であることは変わりません。
ですので、復帰直後は以下のことを意識してください。これは医師としてのお願いです。
- コンドームの使用: 再感染(ピンポン感染)を防ぐためだけでなく、まだ完全には修復されていない自分の粘膜を守るためにも必須です。
- 治癒確認検査の予約: 7日で復帰しても、「本当に死骸が消えたか(完全に治癒したか)」を確認するために、3〜4週間後の検査は必ず受けてください。これをサボると、万が一「薬が効かない耐性菌」だった場合に気づけません。
まとめ:正しく恐れて、賢く治す
性感染症にかかったからといって、人生が終わるわけでも、何ヶ月も仕事を休まなければならないわけでもありません。
医学は進歩しています。適切な薬を使えば、菌は速やかに排除されます。
「もしかして?」と思ったら、悩んでいる時間がもったいない。
今日受診して今日治療すれば、最短で来週にはいつもの日常が戻ってくる可能性が高いのです。
誰にも言えない不安や、仕事への焦りも含めて、まずは診察室でお話ししましょう。
あなたの生活と健康の両方を守る「作戦」を、一緒に立てましょう。
参考文献
- 日本性感染症学会(JAID)『性感染症 診断・治療ガイドライン 2020』
- CDC (Centers for Disease Control and Prevention) Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021
03-6265-9265