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「うつ病」と「適応障害」、同じ休職なのに診断が違う理由――

「うつ病」と「適応障害」、同じ休職なのに診断が違う理由

外来で、こんな問いを受けることがあります。
「先生、私はうつ病ですか?それとも適応障害ですか?」

職場でメンタルを崩した方が、近隣のクリニックや大学病院で診断書を受け取ってきて、「適応障害」と書いてあった場合を考えます。でも自分では「うつ病なんじゃないか」と思っていたりします。あるいはその逆もあります。どちらの診断名をもらった方も、自分の診断に少し腑に落ちていない顔をして来院されます。

この二つの診断、精神科医でも迷うことがあります。概念そのものの違いです。

「ストレスが原因なら適応障害」は正しいか?

よくある誤解に「うつ病は内側から来るもの、適応障害は外側(ストレス)から来るもの」という図式があります。これは半分正しくて、半分あやしい理解です。

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、適応障害を「はっきりしたストレス因に反応して情動面や行動面の症状が出現し、そのストレス因がなくなれば6ヵ月以内に症状が改善する」ものと定義しています[1]。一方でうつ病(大うつ病性障害)は、ストレス因があってもなくても診断されることがあります。

問題は、「ストレスがあった」という事実だけでは、適応障害の診断にならないという点です。職場がつらくて抑うつ状態になった人でも、症状の質・深さ・持続性によっては、うつ病と診断されることは十分ありえます。逆に「内因性うつ病」と呼ばれるような、明確なきっかけのないうつ病も存在します。

私がいつも外来で考えていることはこうです。
「このストレスがなくなったとき、この人は戻れるだろうか?」

うつ病診断の決め手:「内因性」という感覚

精神医学には「内因性」という古典的な概念があります。平たく言うと、外側のストレスだけでは説明しきれない、脳の生物学的な変化がベースにあるのではないか、という考え方です。

具体的に何を見るかですが、私が外来で重視しているのは下記のようなことです。

  • 症状が一日中続き、とくに朝が一番つらい(日内変動)
  • 楽しいことがあっても気分が晴れない(気分反応性の低下)
  • 体重が明らかに落ちている、または眠れても眠れなくても眠りの質が悪い
  • 病前性格として真面目・几帳面・責任感が強い(メランコリー親和型)
  • 以前にも似たエピソードがあった
  • ストレス因がなくなっても症状が持続している

こうした要素が重なるとき、私の中で「うつ病」という診断の可能性が高まります。DSM-5の診断基準上は「2週間以上続く抑うつ気分または興味・喜びの喪失、加えて5つ以上の症状」とされていますが[1]、それはあくまで概念的な枠組みで、臨床判断は常にその人全体を見ながら行います。

適応障害の「ストレスがなくなれば戻れる」という前提が難しい

適応障害という診断を患者さんに伝えるとき、精神科医は少し慎重になります。

「ストレスの原因(たとえば職場)から離れれば回復できる可能性が高い」というのは、診断上確かにそうです。でもそれは患者さんにとってかならずしも希望のある言葉ではないでしょう。なぜなら、「じゃあ今の職場に戻ったらまた悪くなるんじゃないか」という現実が待っているからですよね。

ある患者さん、30代の女性で、夜の仕事をしていた人を例に出しましょう。職場の人間関係が原因で眠れなくなり、食欲も落ちてしまいました。「適応障害」と診断されて休職し、2ヵ月後には表面的には回復しました。でも復職後、また同じ状況に戻って再燃しました。そのとき私は、「この人のストレス耐性という器の問題も考えないといけない」と考えました。最終的に診断を見直し、治療の方針も変えました。

適応障害は「軽症」という意味ではない。その点は、診断を受けた方にはっきり伝えたいと思います。

診断書に「うつ病」と「適応障害」、職場への説明はどう変わるか

休職するとき、診断書の病名は職場や会社に提出されます。そのとき「うつ病」と「適応障害」では、受け取られ方が違うことがあります。

うつ病は「病気として認識されやすい」傾向があります。一方で適応障害は「環境さえ変われば治る」という誤解から、「本人の問題では?」と思われることもあります(これは大きな誤解ですが…)。どちらが「職場での理解を得やすいか」は、職場の文化や担当者によってまったく異なります。

ただ、私が患者さんにいつも言うのは、「診断名よりも、今の状態とこれからの見通しを伝える方が重要」ということです。診断名は医学的な分類であって、職場の人間は医師ではありません。「今どんな状態か」「どれくらい休養が必要か」「どういう環境なら回復できるか」――この3点を、主治医が意見書や診断書に書いてくれるか確認することがより現実的です。

休職期間と予後の違い:どちらが長引くか

一般に、うつ病の方が適応障害より休職期間が長くなる傾向があります。これは各種エビデンス・ガイドラインからも明らかです。

日本うつ病学会の治療ガイドラインでは、うつ病の急性期治療(薬物療法+休養)は最低でも6〜8週間の抗うつ薬投与が推奨されており、回復後も6ヵ月以上の継続投与が再発予防に有効とされています[2]。再発を繰り返すほど次のエピソードが起きやすくなります(kindling仮説)。

適応障害の場合、ストレス因から離れること自体が治療の中心になります。環境調整が成功すれば、比較的短期間での回復が期待できます。ただし、先述のように「器の問題」が背景にある場合や、ストレス因を完全に除去できない状況では、経過が長引くことも多いです。

患者さんから「適応障害って言われたから、すぐ治ると思ってたのに全然治らない」という言葉を聞くことがあります。そのとき私は、やや申し訳ない気持ちになったりします。軽いという印象を抱くことになる診断名を付けたことに対する自責の念からです。

どちらの診断でも「再発予防」は共通の課題

うつ病も適応障害も、回復後の「再発・再燃予防」が重要という点は共通しています。

うつ病では、薬の継続が中心になります。医学研究(メタ分析)では、抗うつ薬の早期中断は再発リスクを有意に高めることがはっきりしています(オッズ比約2.5倍)。症状が良くなったからといってすぐ薬をやめることは推奨されません[3]。「気分が良くなったから飲まなくていいか」と自己判断して中断してくる患者さんは少なくありませんが、それは治療上のリスクになります。

適応障害では、環境調整・認知行動療法的なアプローチ・ライフスタイルの見直しが中心になります。とくに同じストレス因にまた晒されたとき、どうやって自分を守るかというスキルを身につけることが長期的な予防になります。

歌舞伎町のクリニックで日々感じること

土地柄、私が診ている患者さんには、夜の仕事をしている方が多いです。昼夜逆転した生活、体力を消耗する接客、複雑な人間関係――そういった環境の中でメンタルを崩す方は、うつ病と適応障害の境界線上にいることが少なくないのです。

「職場を変えたら治りますか?」と聞かれたときに、精神科医として「はい、おそらく」と答えられる人と、「それだけでは十分ではないかもしれない」と感じる人がいます。その区別を、じっくり時間をかけて一緒に考えることが、私の外来での仕事の多くを占めています。

どちらの診断であっても、「自分はどのくらい深刻な状態にあるのか」「どんな治療が必要か」「どう回復していくのか」を、主治医と一度きちんと話し合ってほしいと思います。診断名はゴールではなく、治療の出発点なのです。

もし今の診断に腑に落ちていない感覚があるなら、セカンドオピニオンを求めることも、医学的に正当な選択肢です。当院では、他院で診断を受けた方のご相談も受けており、診断の根拠を丁寧にご説明した上で、今後の治療方針を一緒に日々考えています。


参考文献

  1. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). American Psychiatric Publishing; 2013.
  2. 日本うつ病学会. 「日本うつ病学会治療ガイドライン II. うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016」. 日本うつ病学会; 2016. Available from: https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/160731.pdf
  3. Geddes JR, Carney SM, Davies C, et al. Relapse prevention with antidepressant drug treatment in depressive disorders: a systematic review. Lancet. 2003;361(9358):653-661. doi:10.1016/S0140-6736(03)12599-8

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