「コンサータ…覚醒剤??」――なぜこの薬は”わざと”半日で切れるように作られているのか

「先生、これって……覚醒剤みたいなものなんですか??」
初診の問診に”ADHDかも”と書いた20代の患者さんが、コンサータの説明をひととおり聞いたあとに、そう言いました。
そもそもなぜコンサータは覚醒剤みたいなものと考えられているのでしょうか?それは、シナプス間隙のドパミン上昇量が高くなるからです。メタンフェタミン(覚醒剤)はドパミン・ノルアドレナリンを神経終末から**能動的に放出**させます。対して、メチルフェニデート(コンサータ)はトランスポーターに結合し、**再取り込みを阻害します。結果として起こっていることは同じようなことです。**
ではやはり、覚醒剤と同じものを飲んでいるのでしょうか。ここで効いてくるのが、”速さ”の違いです。覚醒剤はトランスポーターを逆回転させて一気に放出させますが、メチルフェニデートは再取り込みを阻害するだけで、立ち上がりはずっと緩やかです。同じ土俵に立っていても、入り方の速さがまるで違うのです。
ADHDの薬なのに、なぜ「切れること」が売りなのか

コンサータの有効成分はメチルフェニデートです。同じ成分の薬にリタリンがありますが、両者は別物と考えたほうが実情に近いです。リタリンは効果が数時間で切れる速放性の薬で、うつ病領域では現在ほぼ使われず、ナルコレプシー等に限定されています。一方のコンサータは、OROS(浸透圧放出制御システム)という特殊な構造を使った徐放錠で、服用後1〜2時間ほどで効き始め、そこから約12時間、血中濃度をなだらかに保ち続け、そして夕方には意図的に切れていくよう設計されています。
これは添付文書にも明記されている通り、「本剤は中枢神経刺激作用を有し、その作用は服用後12時間持続するため、就寝時間等を考慮し、午後の服用は避けること」とされているほどです(文献1)。つまりこの薬は、”効くこと”と同じくらい、”切れること”を設計思想の中心に置いているのです。
錠剤の断面を見ると、外側のコーティング層にまず即効性のメチルフェニデートが塗布されており、これが服用後すぐに溶けて立ち上がりを作ります。内部は浸透圧によって水を吸い込み、プッシュ層がゆっくり膨張しながら薬物層を押し出す構造になっており、この”じわじわ押し出す”速度が、12時間という持続時間の正体です(文献2)。定時服用で常に一定の血中濃度を保つタイプの薬(たとえば多くの抗うつ薬や、抗てんかん薬の定常状態管理)とは、そもそも狙っているゴールが違う、というのが私の理解です。
「効き方の角度」が、依存のなりやすさを決めている

コンサータの有効成分はメチルフェニデートです。同じ成分の薬にリタリンがありますが、両者は別物と考えたほうが実情に近いです。リタリンは効果が数時間で切れる速放性の薬で、うつ病領域では現在ほぼ使われず、ナルコレプシー等に限定されています。一方のコンサータは、OROS(浸透圧放出制御システム)という特殊な構造を使った徐放錠で、服用後1〜2時間ほどで効き始め、そこから約12時間、血中濃度をなだらかに保ち続け、そして夕方には意図的に切れていくよう設計されています。
これは添付文書にも明記されている通り、「本剤は中枢神経刺激作用を有し、その作用は服用後12時間持続するため、就寝時間等を考慮し、午後の服用は避けること」とされているほどです(文献1)。つまりこの薬は、”効くこと”と同じくらい、”切れること”を設計思想の中心に置いているのです。
錠剤の断面を見ると、外側のコーティング層にまず即効性のメチルフェニデートが塗布されており、これが服用後すぐに溶けて立ち上がりを作ります。内部は浸透圧によって水を吸い込み、プッシュ層がゆっくり膨張しながら薬物層を押し出す構造になっており、この”じわじわ押し出す”速度が、12時間という持続時間の正体です(文献2)。定時服用で常に一定の血中濃度を保つタイプの薬(たとえば多くの抗うつ薬や、抗てんかん薬の定常状態管理)とは、そもそも狙っているゴールが違う、というのが私の理解です。
「効き方の角度」が、依存のなりやすさを決めている
ここが、患者さんに一番伝えたい部分です。実は、メチルフェニデートという成分そのものが危険なのではなく、脳への「入り方の速さ」が、快感として感じるか、治療効果として感じるかを分けているということが、複数の脳画像研究でわかっています。
米国国立薬物乱用研究所のVolkowらは、メチルフェニデートが脳内のドパミン濃度を上げる作用そのものは、静脈注射でも経口投与でも変わらないのに、血中濃度が「どれだけ急に立ち上がるか」によって、快感の強さ(乱用につながりやすさ)が大きく変わることを報告しています(文献4)。静脈注射や鼻からの吸引のように一気にドパミン受容体を占拠すると強い高揚感(ハイ)を生みますが、コンサータのように緩やかに立ち上がる経口投与では、同じ受容体占拠率であっても、その”快感”はほとんど生じないとされています。
これを裏付けるように、Spencerらが行ったPET(陽電子放射断層撮影)を用いた比較試験では、同程度の血中濃度到達量になるよう調整した即放性メチルフェニデートとOROS製剤(コンサータと同じ放出制御システム)を健常成人に投与したところ、OROS製剤のほうが「薬を検出できたと感じる感覚」も「好ましいと感じる感覚(likeability)」も明確に低かったと報告されています(文献3)。つまりコンサータの”わざと切れる”仕組みは、副作用を減らすためだけでなく、そもそも快感を生みにくくし、依存のリスクそのものを設計段階で下げるための工夫だと理解しています。
アトモキセチンとは、何が根本的に違うのか

もう一人、印象に残っている患者さんがいます。会社員の30代男性で、以前別のクリニックでアトモキセチンを数ヶ月試したものの「変化がよくわからないまま辞めてしまった」という方でした。アトモキセチンは非中枢刺激薬に分類され、主にノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで効果を発揮します(文献7)。効果の実感が出るまでに数週間〜1ヶ月ほどかかることが多く、コンサータのように”今日飲んだら今日効く”という即時的な体感は基本的にありません。
この患者さんは、「変化を自覚できないと、続ける意味を見失ってしまう」タイプの方でした。私はこうしたケースで、乱用歴がなく、飲み方についての約束を守れる方であれば、コンサータへの切り替えを積極的に提案することがあります。コンサータは側坐核を含む報酬系に働きかけてドパミンを直接的に増加させるため、服薬直後から「頭の霧が晴れる」「やるべきことに取り組める」という体感的な変化を自覚しやすいという特徴があります。この”自覚できる変化”こそが、症状改善への動機づけそのものになる人が一定数いる、というのが私の臨床上の実感です。
実際、有効性そのものについても、2018年に発表された133件のランダム化比較試験を統合したネットワークメタアナリシスでは、小児・成人ともに、臨床医評価による症状改善効果はメチルフェニデートのほうがアトモキセチンより高い傾向にあることが示されています(文献5)。もちろんこれは「アトモキセチンが劣る薬」という意味ではなく、不安が強いタイプや、乱用リスクの管理が難しい環境にある方には、非刺激薬であるアトモキセチンのほうが向いていることも少なくありません。あくまで、症状の出方とご本人の性格傾向を見ながら、使い分けるべき薬だと考えています。
副作用は何が出るのか――正直に話します
国内の小児AD/HD承認時の臨床試験では、216例中174例(80.6%)に何らかの副作用(臨床検査値異常を含む)が認められ、もっとも多かったのは食欲減退で91例(42.1%)でした(文献6)。このほか、入眠困難、頭痛、体重減少、動悸、易刺激性なども報告されています。私の外来でも、食欲低下と、それに伴う体重の推移は必ず定期的に確認しています。特に成長期のお子さんでは、身長・体重の推移をグラフで追いながら、必要に応じて休薬日を設けるなどの調整を行います。
また添付文書上、本剤は劇薬・向精神薬(第一種)・処方箋医薬品に指定されており、実際の処方にあたっては「ADHD適正流通管理システム」への医師・薬剤師・患者さんの登録が必須です。これは、乱用や不正な譲渡を防ぐための仕組みであり、面倒に感じられるかもしれませんが、この薬を安全に届け続けるための大切な制約だと私は考えています。
「乱用しなければ依存しない」は本当か
先ほどの患者さんは、こうも聞いてきました。「先生の言うとおりに飲んでいれば、本当に依存しませんか?」
正直に答えるなら、「ゼロではないが、決められた用法・用量を守っている限り、その可能性は極めて低い」というのが、現時点でのエビデンスに基づいた私の答えです。Volkowらの総説でも、依存・乱用のリスクを左右する要因として、①用量、②薬物動態(血中濃度の立ち上がり方)、③個人差、④投与経路の4つが挙げられており、経口・徐放という組み合わせは、そのいずれの観点からも乱用方向にはもっとも振れにくい条件であるとされています(文献4)。一方で、粉砕して鼻から吸引する、複数錠をまとめて服用するといった、添付文書に反する使い方をすれば話は別です。徐放構造そのものを壊す行為は、この薬が持つ”わざと切れる”設計を無効化することと同じであり、その場合のリスクについては私自身、非常に強い懸念を持っています。
当院での考え方
私は、コンサータを「症状に応じてブーストをかけるべき薬」として、乱用のリスクが低いと判断できる方には積極的にお勧めしています。ただしそれは、面談を重ねて生活背景や過去の物質使用歴を確認し、ご本人と用法・用量の約束を交わせると判断できた場合に限ります。逆に、体感的な変化を必要としないタイプの方や、刺激に敏感で不安が強くなりやすい方には、非刺激薬のアトモキセチンやグアンファシンをはじめに検討することも多いです。どちらが良い・悪いという話ではなく、症状の出方とご本人の特性に合わせて選ぶ、というのが基本方針です。
次回の記事では、このアトモキセチンについて、コンサータとの対比を軸にさらに詳しくお話しする予定です。「即効性がない薬に、なぜ意味があるのか」というテーマで、また別の患者さんとのやりとりを交えながら書いてみたいと思います。
ご自身の症状について、「このタイプの薬が合っているのか」「そもそもADHDなのか」を専門的に評価してほしいという方は、当院(新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ)にご相談ください。丁寧な問診と必要な評価を通じて、一人ひとりに合った治療方針を一緒に考えていきます。
参考文献
- コンサータ錠18mg・27mg・36mg 添付文書(ヤンセンファーマ株式会社)
- コンサータ錠18mg,同27mg CTD 第2部 CTDの概要 2.5 臨床に関する概括評価(ヤンセンファーマ株式会社,医薬品医療機器総合機構)
- Spencer TJ, Biederman J, Ciccone PE, et al. PET Study Examining Pharmacokinetics, Detection and Likeability, and Dopamine Transporter Receptor Occupancy of Short- and Long-Acting Oral Methylphenidate. Am J Psychiatry. 2006;163(3):387-395.
- Volkow ND, Swanson JM. Variables That Affect the Clinical Use and Abuse of Methylphenidate in the Treatment of ADHD. Am J Psychiatry. 2003;160(11):1909-1918.
- Cortese S, Adamo N, Del Giovane C, et al. Comparative efficacy and tolerability of medications for attention-deficit hyperactivity disorder in children, adolescents, and adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry. 2018;5(9):727-738.
- コンサータ錠 承認時臨床試験成績(小児AD/HD)、日経メディカル処方薬事典掲載データに基づく。
- 日経メディカル処方薬事典「注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬の解説」(メチルフェニデート・アトモキセチンの作用機序比較)