求人

クリニックからのお知らせ

「自分ってアル中かも」と思ったら——月1回の飲み会で記憶をなくしてしまう人に、精神科医が伝えたいこと|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ

【心療内科・メンタルクリニックも診療中】
不眠・うつ・ADHD・発達障害など、当日予約・夜22時まで対応。

詳細を見る →

「気づいたら記憶がなく、翌朝、誰かに何が起きたか教えてもらって初めて、自分が何をしていたかを知る。ときには、喧嘩になっていたり、警察が関わるような騒ぎになっていたこともある…」今日はそんな方へのお話です。

「自分は毎日飲むわけじゃないから、アル中ではないはずだ」という方、現代の精神医学の診断基準に照らすと、それは十分に「病気」としてお話しできる状態だったりします。

飲み会の席でスマートフォンを見ながら不安げな表情を浮かべる人のイラスト

「アル中」のイメージと、現代の診断基準のあいだにある溝

「アル中(アルコール依存症)」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、毎日大量に飲み続け、お酒が切れると手が震えたり汗が止まらなくなったりする——いわゆる離脱症状を伴う、重度の姿だと思います。たしかにそれも一つの典型像ですが、現代の精神医学は、飲酒の問題を「依存症か、そうでないか」の二択では捉えていません。

現在の国際的な診断基準(DSM-5-TR)では、飲酒に関連する11項目の基準のうち、直近12か月以内に2項目以上が当てはまれば「アルコール使用障害」と診断され、軽度・中等度・重度という連続的な重症度で評価します(American Psychiatric Association, 2022)。この11項目には、渇望や離脱症状だけでなく、「身体的に危険な状況でも飲酒を繰り返す」「飲酒によって対人関係の問題が起きても飲み続ける」といった、行動面の項目も含まれています。つまり、離脱症状もなく、家では一滴も飲まない人であっても、飲み会のたびに記憶をなくし、トラブルを繰り返しているなら、この基準を満たしている可能性は十分にあるということです。

記憶をなくすまで飲んでしまうのは、なぜか——ブラックアウトの正体

「あのとき、自分は何をしていたんだろう」——これは、意志の弱さや性格の問題として片づけられがちですが、脳の中で実際に起きている現象として説明することができます。

アルコールは、記憶を作る中心的な役割を担う「海馬」という脳の部位の働きを妨げます。アルコールが記憶の定着に関わる海馬の神経伝達を阻害することで、意識は保たれたまま、新しい記憶だけが一時的に「記録されない」状態になることが知られています(White, 2003)。よく「記憶が飛ぶ」と表現されますが、正確には記憶が消えたのではなく、そもそも記録されていない、というのが実態に近いのです。

このブラックアウトには、断片的に思い出せる部分もある「部分型」と、その間の出来事がまるごと欠落してしまう「完全型」があるとされています。どちらのタイプであっても、これが起きているあいだは判断力や自制心も同時に低下していることが多く、普段なら絶対にしないような言動——大きな声を出してしまう、些細なことで衝突してしまうことにもつながります。

記憶が一時的に記録されなくなる様子を表した脳のイメージ図

飲み会での喧嘩や警察沙汰は、「性格」のせいだけではない

「お酒を飲むと人が変わる」という言い方をされることがありますが、精神医学的にも、酔い方にはいくつかの段階があると考えられています。通常のほろ酔いから泥酔までを指す「単純酩酊」に対して、飲酒量のわりに気分が高ぶりやすく興奮が強く出る「複雑酩酊」、さらに少量の飲酒でも見当識や記憶が大きく損なわれる「病的酩酊」という状態が知られています。

もちろん、これは自己診断のための分類ではありませんし、法的な責任の重さを判断するための話でもありません。ただ、「自分の酔い方は、一般的にイメージされる『単なる酔っぱらい』とは、少し違うのかもしれない」と客観的に見つめ直すきっかけとして、知っておく価値はあると思います。

当院でよくお会いする、あるパターンについて

実際に外来でお会いする方の中には、こんな共通点を持つ方が一定数いらっしゃいます(複数の方に共通する特徴をまとめた、一般化した例としてご紹介します)。

30代の会社員。自宅では基本的にお酒を飲みません。飲まなくてもつらいと感じることはなく、そもそもお酒の味が特別好きというわけでもない。ただ、月に一度ほどの職場の飲み会になると、場の空気に乗せられるようにペースが上がってしまい、気づいたときには記憶がない。翌日、同僚から「昨日、ああいうことがあったんだよ」と聞かされて初めて、自分が誰かと言い争いになっていたことや、ときには警察が関わるような騒ぎになっていたことを知る——そんな経緯で受診される方です。

こうした方は、「自分は毎日飲みたいわけでもないし、依存症ではないはずだ」と話されることがほとんどです。ですが、これこそが、渇望や離脱症状がなくてもアルコール使用障害と呼びうる、典型的な例の一つだと考えています。

受診すると、何が行われるのか①——動機付け面接という関わり方

当院でこうした方にお話をうかがう際、大切にしているのが「動機付け面接」と呼ばれる関わり方です。これは、「お酒をやめなさい」「量を減らしなさい」と一方的に指示する面接ではありません。本人の中にある「変わりたい気持ち」と「まだ変えたくない気持ち」の両方に耳を傾け、開かれた質問を通じて本人自身の言葉で変化への動機を引き出していく面接技法として、依存症治療の領域で広く用いられています(Miller & Rollnick, 2013)。

当院で行っているのは、専門のプログラムをまるごと実施するというよりも、通常の診察の会話の中に、この考え方を部分的に取り入れる形です。たとえば「飲み会のとき、ご自身ではどんな気持ちで飲んでいることが多いですか」というように尋ねると、「断れない雰囲気があって」「周りに合わせているうちに」といった、本人も気づいていなかった言葉が出てくることがあります。この言葉こそが、その後の治療の方向性を考える手がかりになります。

受診すると、何が行われるのか②——お薬という選択肢

面接と並んで、もう一つの柱がお薬です。簡単に言えば、当院の対応は「お薬とカウンセリング的な試み」の二本柱だとお伝えしています。

ここで大事なのは、目指すゴールが「断酒」なのか「減酒」なのかによって、選ぶお薬が変わるということです。

一生お酒をやめる「断酒」を目指す場合には、断酒後に残る「飲みたい気持ち」そのものを和らげる薬(アカンプロサート)や、服用中に飲酒すると気分の悪くなる反応が出ることで心理的な歯止めとする、いわゆる抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)が選択肢になります。

一方、お酒の量を減らす「減酒」を目指す場合、当院ではナルメフェン(セリンクロ)を第一選択としてご提案することが多いです。この薬の特徴は、毎日飲むのではなく、飲酒の1〜2時間前に頓用することで、その日の飲酒量を減らす効果が確認されている点にあります(Mann et al., 2013;セリンクロ錠10mg添付文書)。「毎日は飲まないけれど、飲み会になるとつい飲みすぎてしまう」という飲酒パターンとは、相性のよい薬だと感じています。

診察室で医師が患者の話に耳を傾けている場面のイラスト

断酒と減酒、いきなり「一生やめる」でなくていい

従来のアルコール依存症治療は、「断酒か、治療を受けないか」という二択に近い形で語られることが多い時代がありました。しかし、近年の診療ガイドラインでは、依存症の重症度が軽い方も含めて、飲酒量を減らすこと自体を治療目標として位置づける方針が示されています(新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン, 2018)。

今回ご紹介したような、月に一度の飲み会だけが悩みの種になっている方にとって、「一生お酒を断つ」という目標は、正直なところハードルが高すぎることが多いように感じます。だからこそ、まずは「減らす」というところから始められる選択肢があることを、知っておいていただきたいのです。

「立派な病気」だと、まず知ってほしいこと

渇望もない、離脱症状もない、家では一滴も飲まない——それでも、飲み会のたびに記憶をなくし、トラブルを繰り返してしまうのなら、それは意志の弱さでも性格の問題でもなく、医学的に対応できる、れっきとした病気である可能性があります。

参考文献

  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). Washington, DC: American Psychiatric Association Publishing; 2022.
  • White AM. What happened? Alcohol, memory blackouts, and the brain. Alcohol Res Health. 2003;27(2):186-196.
  • 樋口進監修. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 日本アルコール関連問題学会; 2018.
  • Mann K, Bladström A, Torup L, Gual A, van den Brink W. Extending the treatment options in alcohol dependence: a randomized controlled study of as-needed nalmefene. Biol Psychiatry. 2013;73(8):706-713.
  • 大塚製薬株式会社. セリンクロ錠10mg 添付文書. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)承認情報; 2019年.
  • Miller WR, Rollnick S. Motivational Interviewing: Helping People Change. 3rd ed. New York: Guilford Press; 2013.
  • 日本アルコール・アディクション医学会, 日本アルコール関連問題学会. 飲酒量低減治療マニュアル ポケット版 第1版. 2019年11月.

シティライトクリニック 心とからだ|新宿 西武新宿駅徒歩1分

こころのお悩み、まずはご相談ください

不眠・うつ・不安・ADHD・発達障害|当日予約・即日診断書・夜22時まで診療

WEB予約はこちら →
一覧へ戻る