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「誰かに見られてる気がする」――それ、統合失調症のサインとは限りません|新宿 心療内科 シティライトメンタルクリニック
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「見られている気がする」という感覚は、統合失調症の代名詞のように扱われることがあります。ネットで検索するとすぐにその病名が出てきて、それだけで一気に不安になってしまう方がおられます。ですが結論から言うと、この感覚だけで統合失調症を心配する必要は、ほとんどの場合ありません。
「見られている気がする」は、実は珍しい体験ではありません
まず知っておいていただきたいのは、誰かの視線を感じる、監視されているような気配がする、という感覚自体は、精神科的にはそれほど珍しいものではないということです。強いストレスが続いたとき、極端な睡眠不足のとき、あるいはお酒を飲みすぎたときなどに、一時的にこうした感覚が生じることは、健康な人にも起こりえます。
実際、健康な人を対象にした実験でも、数日間にわたって睡眠時間を大きく削ると、周囲への疑い深さ(パラノイア的な感覚)がはっきりと強まることが確認されています(Reeve et al., 2018)。つまり「見られている気がする」という感覚は、脳の異常のサインというより、心身が悲鳴を上げているサインであることのほうが、むしろ多いのです。
先日も、繁忙期で連日の残業と睡眠不足が続いていた方が、通勤中に視線のようなものを感じるようになったと来院されました。詳しくお話を伺っても、それ以外に気になる変化は見当たらず、まずは休養と生活リズムを立て直すことをお勧めしました。数週間後の診察では、その感覚はほとんど気にならなくなっていた、とのことでした。こうした経過をたどる方は、決して珍しくありません。
統合失調症以外にも、似た感覚が起こる場面はたくさんあります
被害念慮(誰かに狙われている、監視されているといった感覚)は、統合失調症だけに現れる症状ではありません。精神病性の特徴を伴う重いうつ病や双極性障害のエピソード、強い不安症やパニック症、もともと人を疑いやすい性格傾向、そしてアルコールや一部の薬物の影響でも見られることがあります。
症状の名前だけを見て疾患を特定することはできません。同じ「見られている気がする」という訴えでも、その背景にある状態はまったく異なることが多く、だからこそ自己判断で結論を急がないことが大切です。
統合失調症の「前駆期」とは――単発の感覚との違い
とはいえ、統合失調症の発症前段階である「前駆期」にも、被害念慮に似た感覚が現れることはあります。ただし前駆期では、被害念慮だけが単発で存在するのではなく、他の変化を伴っていることが多いとされています。具体的には、集中力や作業効率の低下といった認知機能の変化、友人や家族との関わりを避けるようになる社会的な引きこもり、感情表現の乏しさや意欲の低下などです。これらが複数、一定期間にわたって持続してみられる場合に、専門的な評価の対象になります。
ここで、心配しすぎなくていい理由をもう一つお伝えします。専門の外来で「発症リスクが高い状態(臨床的ハイリスク状態)」と評価された方についての大規模な追跡研究でも、実際に精神病症状へ移行する割合は、3年以内でおよそ25%、4年以上経っても3割弱にとどまることが示されています(Salazar de Pablo et al., 2021)。つまり、専門機関で「リスクが高い」と判断された方の中でも、7割以上は移行しないのです。まして「見られている気がする」という感覚を一度感じただけの段階であれば、なおさら心配しすぎる必要はありません。
統合失調症になる人はどれくらいいるのか
数字の話もしておきます。世界各国のデータをまとめた大規模なレビューによると、統合失調症の生涯有病率(一生のうちにこの病気にかかる割合)はおよそ0.7%程度、100人に1人に満たない水準とされています(McGrath et al., 2008)。決して身近さゼロの病気ではありませんが、「見られている気がする」と感じた人の多くが行き着く先というほど高い数字でもありません。
リスク要因についても触れておきます。家族に統合失調症の方がいると、まったく血縁のない人に比べてリスクがやや高まることは事実です。双子を対象にした研究の統合解析では、発症のしやすさに遺伝的な要因が関与する度合い(遺伝率)は8割程度と報告されていますが(Sullivan et al., 2003)、これは「遺伝子ひとつで運命が決まる」という意味では全くありません。多数の遺伝的な要因と、環境要因が複雑に絡み合って発症するかどうかが決まるため、家族に罹患者がいても、実際に発症しない人のほうがはるかに多いのが実情です。
環境要因としては、若年期の強い心理社会的ストレスに加えて、大麻など一部薬物の使用が挙げられます。大麻使用量とその後の精神病発症リスクの関連を調べたメタ解析では、使用量の多いグループほど発症リスクが明確に高くなる用量反応関係が確認されており、最も多く使用していた群では未使用群に比べてリスクが約4倍という結果が出ています(Marconi et al., 2016)。特に若い時期の大麻使用は避けたほうがよい、という根拠のひとつになっています。
確実な「予防法」はないけれど、早めの相談が力になります
正直なところ、統合失調症を確実に予防する方法は、今のところ確立されていません。ですから「これさえすれば発症しない」と言い切ることはできません。それでも、生活リズムを整えて十分な睡眠を確保すること、過度なストレスを溜め込みすぎないこと、大麻などの薬物を避けることは、統合失調症に限らずメンタルヘルス全般にとって意味のある備えになります。
そしてもうひとつ、はっきりお伝えしたいことがあります。もし本当に精神病症状の初期段階にあった場合でも、早期に専門的な支援につながった人たちのほうが、症状の重さや治療の続けやすさ、社会生活への適応といった面で、対応が遅れた人たちより明確に良い経過をたどることが、複数のランダム化比較試験をまとめた解析で示されています(Correll et al., 2018)。つまり「様子を見すぎず、早めに相談する」という行動そのものが、結果的に安心につながる備えになるのです。
「見られている気がする」と一度でも感じたからといって、統合失調症になるとは限りません。むしろ多くの場合、その背景にあるのは一過性のストレスや睡眠不足であり、生活を立て直すだけで自然と落ち着いていきます。心配になって調べたり、こうして記事を読んでくださっていること自体は、決して悪いことではなく、気になったときに相談してみようという姿勢は、とても自然で望ましいものだと思います。
参考文献
- McGrath J, Saha S, Chant D, Welham J. Schizophrenia: a concise overview of incidence, prevalence, and mortality. Epidemiol Rev. 2008;30(1):67-76.
- Salazar de Pablo G, Radua J, Pereira J, et al. Probability of Transition to Psychosis in Individuals at Clinical High Risk: An Updated Meta-analysis. JAMA Psychiatry. 2021;78(9):970-978.
- Sullivan PF, Kendler KS, Neale MC. Schizophrenia as a complex trait: evidence from a meta-analysis of twin studies. Arch Gen Psychiatry. 2003;60(12):1187-1192.
- Marconi A, Di Forti M, Lewis CM, Murray RM, Vassos E. Meta-analysis of the Association Between the Level of Cannabis Use and Risk of Psychosis. Schizophr Bull. 2016;42(5):1262-1269.
- Correll CU, Galling B, Pawar A, et al. Comparison of Early Intervention Services vs Treatment as Usual for Early-Phase Psychosis: A Systematic Review, Meta-analysis, and Meta-regression. JAMA Psychiatry. 2018;75(6):555-565.
- Reeve S, Emsley R, Sheaves B, Freeman D. Disrupting Sleep: The Effects of Sleep Loss on Psychotic Experiences Tested in an Experimental Study With Mediation Analysis. Schizophr Bull. 2018;44(3):662-671.
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