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「酒癖が悪い」と言われたら――お酒の飲みすぎと”病気”の境界線|新宿 心療内科 シティライトメンタルクリニック
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「酒癖が悪い」という言葉を、私たちはわりと軽く使います。飲むと声が大きくなる、絡み方がしつこくなる、次の日には覚えていない――そういう振る舞いをひとまとめにして、「あの人はお酒が入ると人が変わるから」で片づけてしまうことは多いと思います。
ただ、精神科の外来をしていると、この「酒癖」という言葉の奥に、もう少し違うものが隠れていることがある、とふと感じる瞬間があります。パートナーや家族に繰り返し指摘されて、半信半疑のまま予約を取ってこられる方。ご本人はたいてい、こうおっしゃいます。「別に、自分では困っていないんですけどね」。
この「困っていない」という感覚と、「病気かもしれない」という可能性は、実は両立します。今日は、その境界線がどのあたりにあるのか、という話をしてみたいと思います。
「酒癖が悪い」と「病気」は、何によって分けられるのか
多くの方が「病気」と聞くと、毎日飲まずにはいられない、飲めないと手が震える、汗が止まらない――そういう、いわゆる離脱症状や強い渇望を思い浮かべます。そして、自分にはそれがないから、自分は違う、と考えます。この考え方自体は、決して不自然ではありません。
ただ、現在の診断の考え方は、そこまで単純な線引きをしていません。国際的な診断基準(DSM-5-TR)では、飲酒に関連する11の項目のうち、直近12か月で2項目以上当てはまれば「アルコール使用障害」とされ、当てはまる項目数に応じて軽度・中等度・重度という連続的な重さで評価されます(NIAAA, 2024)。そして、この11項目のうち、渇望や離脱症状に関わる項目は一部にすぎず、残りは「飲酒によって人間関係に支障が出ているのに飲み続けている」「やめよう・減らそうとしてもうまくいかない」といった、行動や関係性にまつわる項目です。つまり、渇望も離脱もない方でも、この基準に照らせば十分「病気」の範囲に入ることがある、ということになります。
もうひとつ、個人的に興味深いと思っている視点があります。行動変容の研究の分野では、人が生活習慣を変えていく過程を段階的にとらえるモデルが知られていて、その中でもっとも初期の段階は「自分の行動を問題だとまだ認識していない」状態だとされています。そして、この段階にいる本人よりも先に、周囲の家族やパートナーのほうが変化の必要性に気づいていることが多いと指摘されています(Prochaska, DiClemente, & Norcross, 1992)。「困っているのは自分じゃなくて周りだ」というのは、当てはまらないことの証明にはならず、むしろこのモデルでいうところの、ごく初期の段階にいるだけなのかもしれません。
当院でよくうかがう、”指摘されて来た”という相談
実際に外来でお話をうかがっていると、こんな経過をたどって来院される方に、一定数お会いします(複数の方に共通する特徴をまとめた、一般化した例としてご紹介します)。
30〜40代で、仕事も家庭もこれといって破綻しているわけではありません。もともとは晩酌の量もそれほどでもなかったのが、ここ1〜2年でじわじわと増えていて、気づけば毎晩缶チューハイ数本、あるいはウイスキーを何杯も、というペースになっている。離脱症状はなく、飲めない日があっても特につらくはない。ただ、月に一度くらい、飲みすぎて記憶が飛んでしまう夜があり、その翌朝に配偶者から「またあんな飲み方をして」と指摘される。そんな出来事が何度か重なった末に、「一度、病院で診てもらったら」と背中を押されて、予約を取る――という流れです。
こうした方に共通しているのは、飲酒そのものよりも先に、飲酒をめぐって誰かとの関係がぎくしゃくしているという事実です。実はこの「関係がぎくしゃくしても飲酒を続けてしまう」という状態こそが、先ほど触れた診断項目のひとつに直結します。ご本人にとっては「性格の不一致」や「価値観の違い」に見えている出来事が、医学的に見れば、すでにひとつのサインになっていることがあるのです。
受診してすぐ「やめなさい」と言われるわけではありません――動機付け面接という関わり方
「指摘されて来た」という方の多くは、どこかで身構えています。診察室でも、頭ごなしに「お酒をやめましょう」と言われるのではないか、と警戒されていることが少なくありません。当院では、こうした場面で「動機付け面接」という関わり方を意識しています。これは、本人の中にある「変わりたい気持ち」と「まだ変えたくない気持ち」の両方に耳を傾けながら、指示ではなく開かれた質問を通じて、本人自身の言葉で変化への動機を引き出していく面接技法です(Miller & Rollnick, 2013)。
実際の診察は、こんな雰囲気で進むことがあります。
医師「今日はどういったきっかけで来られましたか」
患者「パートナーに、お酒の量を減らしたほうがいいって言われて……正直、自分ではそこまで困ってないんですけど」
医師「なるほど。ご本人はそこまで困っていない、でもパートナーの方は心配されている、と。もしよければ、そう言われるようになったきっかけ、うかがってもいいですか」
患者「先週、家で飲んでいて、途中から記憶が全然なくて。それで、また怒られました」
医師「記憶がない状態になるまで飲んでしまった、と。ご自身では、そのことについてどう感じていますか」
患者「まあ……さすがにちょっとまずかったかなとは思います。次の日も頭が重くて、仕事に響きましたし」
医師「次の日に響くのは、しんどいですよね。もし今より少し飲む量を減らせるとしたら、どんなことができそうですか」
ここでのポイントは、「減らしなさい」と言い切らず、「減らせるとしたら」という仮定の形で問いを投げていることです。答えを決めるのはあくまで本人で、こちらはその手前にある迷いや引っかかりを、一緒に言葉にしていくような感覚に近いかもしれません。
断酒じゃなくていい――「減酒」という選択肢とお薬の話
面接と並んで、もうひとつの柱がお薬です。ここで大切なのは、目指すゴールが「断酒」なのか「減酒」なのかによって、選ぶお薬も変わってくるということです。
従来のアルコール依存症治療は、「一生断酒するか、治療を受けないか」に近い形で語られがちでした。しかし、近年の診療ガイドラインでは、重症度が軽い方も含めて、飲酒量を減らすこと自体を治療目標として位置づける方針が示されています(新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン, 2018)。今回お話ししているような、日常生活は一見保たれていて、飲む日に飲みすぎてしまうタイプの方にとって、「一生やめる」という目標はハードルが高すぎることが多いように感じます。
減酒を目指す場合、当院ではナルメフェン(商品名:セリンクロ)を第一選択としてご提案することが多いです。この薬は毎日服用するのではなく、飲酒の1〜2時間前に1回10mgを服用し、1日20mgを超えない範囲で用いる、頓用タイプの薬です(セリンクロ錠10mg添付文書、PMDA承認情報, 2019年)。「毎日は困っていないけれど、飲む日についペースが上がってしまう」という飲酒パターンとは、相性のよい薬だと感じています。あわせて、添付文書にも、この薬は心理社会的な治療と併用することが前提として明記されています(同添付文書)。つまり、お薬だけで完結するものではなく、先ほどの動機付け面接のような対話と組み合わせることで、はじめて狙った効果につながりやすくなる、という位置づけです。
「自分は困っていない」は、相談しない理由になりません
離脱症状もない、渇望もない、日常生活も一見回っている――それでも、飲酒をめぐって誰かとの関係が繰り返しぎくしゃくしているなら、それはすでに、境界線のどちら側にいるのかを一度確かめてみる価値がある状態だと、私は考えています。
「性格だから」「酒癖の問題だから」と自分ひとりで結論を出してしまう前に、一度、話をしてみてください。断酒でも、我慢でもない、減酒という現実的な選択肢が見えてくるかもしれません。
参考文献
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). Alcohol Use Disorder: From Risk to Diagnosis to Recovery. 2024.
- Prochaska JO, DiClemente CC, Norcross JC. In search of how people change: applications to addictive behaviors. Am Psychol. 1992;47(9):1102-1114.
- Miller WR, Rollnick S. Motivational Interviewing: Helping People Change. 3rd ed. New York: Guilford Press; 2013.
- 樋口進監修. 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 日本アルコール関連問題学会; 2018.
- 大塚製薬株式会社. セリンクロ錠10mg 添付文書. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)承認情報; 2019年.
- 日本アルコール・アディクション医学会, 日本アルコール関連問題学会. 飲酒量低減治療マニュアル ポケット版 第1版. 2019年11月.
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