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カンジダは性病じゃない?でも、なぜパートナーと「うつし合う」のか──現役医師が診察室の現実を語る
「カンジダって、性病ですか?」
この質問、本当によく受けます。診察室でそう聞かれるたびに、少し考えてしまいます。「性病じゃない」と言い切るのも正確ではなくて、「性病です」と言うのも語弊がある。このどちらとも言い切れない微妙な立ち位置が、カンジダという病気の面白いところでもあり、患者さんを混乱させる理由でもあると思っています。
今日は、そのあたりを整理して話してみます。
📋 この記事の内容
- カンジダとは何か──常在菌という概念
- カンジダは「うつる」のか?医学的エビデンスで考える
- じゃあなぜ、パートナーとうつし合うように見えるのか
- 症状がなければ治療しなくていいのか?
- 診察でわかること、検査でわかること
- 当院での検査・治療について
カンジダは「菌」ではなく「常在菌」──そもそも外から来ていない
まず基本から。カンジダ(Candida albicans)は真菌、つまりカビの一種です。でも、これは外から侵入してくる病原菌とは少し性格が違います。
健康な女性の膣内には、もともと少量のカンジダが存在しています。腸内にも口の中にも皮膚にも、ごく普通にいる菌です。問題は「いるかいないか」ではなく、「増えすぎるかどうか」なんですね。
膣内の環境は、Lactobacillus(乳酸菌)が支配的に存在することで酸性に保たれており、カンジダの過増殖を抑制しています。この均衡が崩れたとき──抗生物質の服用、月経前のホルモン変動、睡眠不足、ストレス、糖尿病、妊娠など──カンジダが爆発的に増えて症状が出ます。これが「カンジダ膣炎(外陰膣カンジダ症)」です。
つまり本質的には、カンジダは「感染症」というよりも「自分の中にいる菌が増えすぎた状態」です。
この視点が大事で、「彼氏にうつされた」という訴えで来院される患者さんも、実際には自分の中のカンジダが何らかのきっかけで増えただけ、ということが非常に多い。でも、それだけで全部説明できるかというと、そうでもないんですよね。
「性行為でうつる」は本当か?──エビデンスと臨床の正直なところ
これが今日の核心です。
ガイドラインを確認すると、米国CDCの性感染症治療ガイドライン(2021年版)では、外陰膣カンジダ症は性感染症(STI)としては分類されていません。[1] 日本の性感染症学会のガイドライン(2023年改訂版)でも同様に、「性行為が主要な感染経路ではない」と明記されています。[2]
ただし──「性行為による伝播がある」というエビデンスも、一定程度存在します。
パートナー間の分子疫学的研究(Foxman et al., 2000)では、性的パートナー間でカンジダの遺伝子型が一致するケースが統計的に有意に多いことが示されています。[3] これは「性行為によって菌が移動する可能性」を支持するデータです。また、男性のペニスにカンジダが定着しているケースで、性行為後に女性のカンジダ膣炎が再発しやすいという報告もあります。[4]
ひょっとしたら、「うつる・うつらない」の二択で考えること自体が間違いなのかもしれない、と診察をしていると思うことがあります。
より正確に言うと:
- カンジダは性行為によって伝播することはあるが、主要な感染経路ではない
- 性行為より、抗生物質・ホルモン・免疫・生活習慣などの宿主側の要因の方が発症に与える影響が大きい
- ただし、再発を繰り返す患者さんでは、パートナーの関与を無視するのは臨床的に不十分
この「どちらとも言い切れない」という立場が、現時点のエビデンスに最も忠実な答えだと思っています。
なぜ「パートナーとうつし合っている気がする」のか
先日、こんな患者さんがいました。20代後半の女性で、「3ヶ月前に治したはずのカンジダが、また出てきた。彼氏からうつされ続けているんだと思う」という相談でした。
話を聞いていくと、仕事が繁忙期で、睡眠が取れていない。生理の2週間前くらいから毎回症状が出る。そして確かに、症状が出るタイミングで性行為がある。
これは典型的な経過で、おそらく「性行為がトリガーになっている」のではなく「黄体期のホルモン変動が免疫を下げるタイミングで、性行為が重なっている」だけです。カンジダは性行為で増えるのではなく、その前から増え始めていたと考える方が合理的です。
とはいえ、「パートナーの男性にカンジダが定着していないか」という点も確認しておくべきで、その方には相手の受診を提案しました。男性のカンジダは多くの場合無症状ですが、亀頭部にカンジダが定着していると、性行為ごとに女性の膣へ菌を押し込む形になることはあり得ます。
再発を繰り返す方(年4回以上を「再発性外陰膣カンジダ症」と定義します)では、パートナー検査・治療も選択肢に入れることが、海外のガイドラインでも示されています。[5]
症状がなければ放置でいいのか──「無症状カンジダ」の考え方
これは正直、かなり実践的な問いです。
答えから言うと、無症状のカンジダは基本的に治療不要です。
CDC 2021年ガイドラインでも、日本の性感染症学会ガイドラインでも、この点は明確に一致しています。膣内にカンジダが検出されても、症状(かゆみ、おりものの変化、外陰部の発赤・腫脹)がなければ治療適応はない、とされています。[1][2]
当院に来院される患者さんの中にも、「念のため検査して、カンジダが出たから薬をもらいたい」という方がいます。症状がない場合はその必要はなく、むしろ不用意な抗真菌薬の使用は耐性カンジダの問題や、正常な膣内フローラへのダメージにもつながります。
ただし、こういった場合は注意が必要です:
- 免疫抑制状態(HIV感染、ステロイド使用、糖尿病のコントロール不良など)
- 妊娠中(新生児への垂直感染リスク)
- 症状がないと思っていても、実は軽度の症状を「いつものこと」と感じて慣れてしまっているケース
最後の点は診察でよくあることで、「特に症状はないんですが」と言っていた方が、外来で診察してみると明らかな発赤や分泌物の性状変化があった、というのは珍しくありません。
おりものの変化で何が分かるか──診察室での見極め
おりもの(帯下)とは、子宮頸管や膣の分泌物で、子宮や膣を守るための粘液です。痰のようなものだとイメージしてください。健康なときはさらさらして白っぽいですが、何かが変わると性状が変化します。
カンジダの場合のおりものは、白色でカッテージチーズ状またはヨーグルト状、酒粕のようなぼろぼろした質感が典型です。においはほとんどなく(においが強い場合は細菌性膣症やトリコモナスを疑います)、強いかゆみを伴うのが特徴です。
一方、似た症状でも:
- 細菌性膣症:灰白色のおりもの、魚臭、かゆみは軽度
- トリコモナス膣炎:黄緑色の泡状おりもの、においあり、かゆみ・灼熱感
- クラミジア・淋菌:おりものの増量、子宮頸管炎所見
視診だけではこの鑑別が難しいことがあります。ひょっとしたらカンジダだと思って診ていたら細菌性膣症が合併していた、というのは実際にある話で、だからこそ検査が意味を持ちます。
当院の検査体制──グラム染色迅速検査の導入について
現在当院では、カンジダの診断は主に視診と分泌物の外注微生物学検査(培養)で行っています。培養検査は感度・特異度ともに高い方法ですが、結果が出るまでに数日かかります。
2025年8月以降、グラム染色による迅速検査を院内で導入予定です。
グラム染色とは、分泌物を顕微鏡でその場で染めて観察する検査です。カンジダの菌糸(偽菌糸)を直接確認できるため、当日中に結果が得られます。同時に、細菌性膣症の原因となるClue cellや、その他の細菌の状態も確認できるため、「カンジダだけでなく他の感染症も確認したい」という方にとって有益な検査です。
これまで「おりものの変化が気になるけど、結果が出るまで不安」という声を患者さんからいただいていました。迅速化できることで、その不安を少し軽くできるのではないかと思っています。
なお、カンジダと細菌性膣症は合併することがあります。どちらが原因かはっきりしていない段階で、症状が強い場合には、海外のガイドラインでも両疾患を同時に治療することが示されており、当院でも同様の対応をしています。[5] これにより、「結果待ちの間も症状で辛い思いをしなくて済む」というメリットを患者さんに感じていただけることが多いです。
カンジダだと思って来院したら、別の感染症だった──重複感染について
もう少し実践的な話をします。
ナイトワーカーの方や性行為の機会が多い方では、「カンジダ」と「性感染症」が同時に存在することがあります。クラミジアや淋菌に感染した場合、子宮頸管の炎症が起きて分泌物が増えることがあり、この変化をカンジダと誤解するケースが実際にあります。
また、クラミジア治療のために処方されたドキシサイクリンやアジスロマイシンが腸内・膣内の乳酸菌を乱して、治療後にカンジダ膣炎を引き起こすこともあります。抗生物質を使った後にかゆみが出た、というのはこの機序です。
性感染症の検査に来た方が「カンジダっぽい症状もある」という場合、両方を同時に評価することは臨床的に合理的で、当院でもそのように対応しています。
まとめ──カンジダとうまく付き合うために
改めて整理すると:
- カンジダは性感染症ではないが、性行為による伝播を完全には否定できない
- 発症の主な要因は抗生物質・ホルモン・免疫・生活習慣など宿主側の問題
- 無症状なら治療は不要(ガイドライン推奨)
- 再発を繰り返す場合はパートナーの評価も含めて考える
- おりものの変化は、カンジダ以外の原因も視野に入れて評価する必要がある
- 2025年8月以降、当院ではグラム染色迅速検査を導入予定
「カンジダかどうか気になる」「おりものが変な気がする」という程度であれば、症状がなければすぐに治療が必要なわけではありません。ただ、症状があるのに我慢しているとか、繰り返し同じことが起きているという場合は、一度きちんと評価してみることをお勧めします。
歌舞伎町という場所柄、「性病かもしれない」という不安を抱えながら来院される方が多いです。カンジダについては、正直に「これは性感染症とは少し違う話です」とお伝えすることが多いのですが、それ自体が安心材料になることもあります。何が起きているかを正確に把握することが、まず大事です。
参考文献
- Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1–187.
- 日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2023.
- Foxman B, et al. Candida vaginitis: self-reported incidence and associated costs. Sex Transm Dis. 2000;27(4):230–235.
- Sobel JD. Recurrent vulvovaginal candidiasis. Am J Obstet Gynecol. 2016;214(1):15–21. (IF: 8.7)
- Pappas PG, et al. Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2016;62(4):e1–50. (IF: 20.4)
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