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クラミジアの薬、1回で終わる薬と1週間飲む薬、どっちが正解?耐性菌と治療のリアル
クラミジアの薬、1回で終わる薬と1週間飲む薬、どっちが正解?耐性菌と治療のリアル
先日、仕事終わりのホストの男性患者さんがふらりと来院されました。「先生、またクラミジアかもしれません。いつもの1回で終わる薬お願いします」と、彼はやや慣れた様子で仰います。
「いつもの薬」。つまりアジスロマイシン(商品名:ジスロマックなど)のことですね。
確かに、その場で4錠飲むだけで治療が完結するのは、忙しいナイトワーカーの皆さんにとって魅力的です。飲み忘れもないし、お客様との付き合いでお酒を飲む機会が多い生活において、1週間の禁酒や服薬制限は正直しんどい。
でも、私はいつもこのような時一瞬立ち止まって考えます。
「本当にその選択だけでいいのだろうか?」というように。
今日は、診察室で私が密かに悩み、そして患者さんと相談して決めている「クラミジア治療薬の選択」について、少し専門的な話を交えながら書いてみたいと思います。
「とりあえずジスロマック」で治らないケースが増えている?
皆さんがよく知っている「1回飲めば終わり」の薬、アジスロマイシン。これはマクロライド系という種類の抗生物質です。
長い間、クラミジア治療の第一選択薬として君臨してきました。しかし近年、雲行きが怪しくなっています。
医師として肌感覚でも感じることですが、「薬を飲んだのに再検査で陽性のまま」というケースがちらほら見受けられるのです。
耐性菌という「薬に強い敵」の出現
耐性菌、という言葉を聞いたことはありますか?
簡単に言うと、バイキンがレベルアップして、今まで効いていた攻撃(抗生物質)が効かなくなってしまうことです。ゲームのボスキャラが、炎の攻撃に耐性を持ってしまった状態をイメージしてください。
国内のデータや論文を見ても、アジスロマイシンに対するクラミジアの感受性(効きやすさ)が低下しているという報告が出始めています。もちろん、まだ多くは効きます。しかし、100発100中だった時代は終わりつつあるのです。
のどや直腸のクラミジアには「1週間飲む薬」が効く?
ここで、もう一つの選択肢が登場します。「ビブラマイシン(ドキシサイクリン)」という薬です。
これは1日2回、7日間飲み続けなければなりません。皆さん、「えー、めんどくさい」って顔をされます。その気持ち、痛いほどわかります。
しかし、医学的なガイドライン、特に性感染症治療の先進国であるアメリカのCDC(疾病予防管理センター)のガイドラインでは、実は第一選択薬がアジスロマイシンからドキシサイクリン(ビブラマイシン)へ変更されました。
なぜ面倒な薬が推奨されるのか?
理由は大きく2つあります。
- 直腸感染への効果: アナルセックスをする場合や、女性の場合でも分泌物が流れて直腸(お尻の中)にクラミジアが感染していることがよくあります。アジスロマイシンはこの「直腸のクラミジア」に対して、治癒率が低いことがわかってきました。ドキシサイクリンは直腸感染に対しても高い治癒率(99%以上という報告も)を誇ります。
- 確実性: 飲み忘れさえなければ、ドキシサイクリンの方が菌を叩く力が安定しているのです。
「隠れ性病」マイコプラズマ・ジェニタリウムとの関係
私が診療でビブラマイシン(ドキシサイクリン)をあえてお勧めするもう一つの大きな理由。それは「マイコプラズマ・ジェニタリウム」の存在です。
マイコプラズマ・ジェニタリウムは、クラミジアと症状がそっくり、あるいは無症状の性感染症です。厄介なことに、クラミジアだと思ってアジスロマイシンを飲むと、このマイコプラズマが中途半端に攻撃され、「スーパー耐性菌」に進化してしまうリスクがあるのです。
ある日来院された女性患者さんの例です。
「他院でクラミジアの薬をもらったけど、おりものが治らない」
検査をすると、クラミジアは陰性でしたが、マイコプラズマ・ジェニタリウムが陽性でした。しかも、アジスロマイシンが効かない耐性を持っていました。
もし最初からドキシサイクリンを使っていれば、少なくともマイコプラズマの菌量を減らすことができ、耐性化のリスクを下げられたかもしれません。ドキシサイクリン自体でマイコプラズマが完治する確率は30〜40%程度ですが、その後の治療(シタフロキサシンやモキシフロキサシンなど)へのつなぎとして優秀なのです。
当院が提案する「あなたに合った治療」とは
では、全員に「1週間頑張って飲んでください」と言うべきか。ここが臨床の難しいところです。
「絶対に飲み忘れる自信がある」「仕事柄、決まった時間の服薬が不可能」という患者さんに、無理に7日分処方しても、途中でやめてしまえば元も子もありません。それでは逆に耐性菌を作ってしまいます。
当院では、以下のように判断しています。
- 飲み忘れが心配な方、今すぐとりあえず対処したい方: アジスロマイシン(1回のみ)を処方。ただし、「必ず治癒検査(再検査)に来てください」と念を押します。直腸感染の疑いがある場合はリスクを説明します。
- 確実性を重視する方、直腸感染のリスクがある方、マイコプラズマの懸念がある方: ビブラマイシン(7日間)を強く推奨します。
性感染症の治療は、ただ薬を飲む作業ではありません。あなたのライフスタイルと、身体の中にいる菌の状況、両方を見極めて「戦略」を立てる必要があります。
自己判断で通販の薬を飲んだり、古い残薬を飲んだりするのが一番危険です。
もし、「治りが悪いな」「どっちの薬がいいのかな」と迷ったら、夜の街の事情を知り尽くした私たちに相談してください。あなたの生活に一番合った、そして医学的に正しい近道を一緒に探しましょう。
参考文献
- 日本性感染症学会:性感染症 診断・治療 ガイドライン2020.
- Workowski KA, Bachmann LH, Chan PA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep 2021;70(No. RR-4):1–187. (CDCガイドライン:ドキシサイクリンの推奨度引き上げについて)
- Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021.

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