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先延ばし癖がやめられないのはなぜ?ADHDの脳の仕組みと対策を精神科医が解説|新宿 心療内科 シティライトメンタルクリニック

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「わかっているのに、ギリギリにならないと動けない」。ADHDだと不安に思っている方に多いんではないでしょうか?。

先延ばしという現象は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診療をしていると、驚くほど頻繁に話題にのぼります。しかも厄介なのは、まったく同じ人が、好きなことには時間を忘れて何時間でも没頭できてしまう、という事実です。苦手な作業には指一本動かせないのに、興味のあることには「過集中」してしまう――この一見矛盾した現象を、今日はその仕組みから、薬や日々の工夫でできることまで、順番に書いてみようと思います。

デスクに向かい、やるべき書類を前にして手が止まってしまっている人のイラスト

「意志が弱い」のではなく、脳の報酬の感じ方が違う

先延ばしは、不注意・多動性・衝動性というADHDの3つの特性が絡み合って生じる行動だと考えられています。なかでも中心的な役割を果たしているのが、「報酬の感じ方」の違いです。ADHDの脳は、将来の大きな報酬よりも、今すぐ手に入る小さな報酬を極端に強く評価してしまう「遅延回避(delay aversion)」という傾向を持つことが、神経発達の二重経路モデルとして提唱されています(Sonuga-Barke, 2003)。やるべき作業そのものに苦痛や退屈さを感じやすく、脳がその”今すぐの負担”を実際の大きさより重く評価してしまうため、着手そのものが心理的に重くなるのです。

一方で、締切が目の前まで迫ると、焦りや切迫感によって脳の覚醒水準が一気に上がり、急に集中できることがあります。「切羽詰まらないと動けない」という感覚の多くは、この”締切駆動型の集中”によるものです。本人からすると「結局いつもこれで乗り切ってしまう」という成功体験にすら見えるのですが、それは仕組みの問題を解決したわけではなく、毎回ぎりぎりのところで報酬系に火をつけているだけ、というのが実際のところです。

「あと3時間」も「あと3週間」も、同じくらい遠い――時間感覚そのものの違い

もうひとつの重要な要素が、時間の感じ方です。ADHD研究の先駆者であるBarkleyは、ADHDの中核にある問題を、単なる不注意ではなく、時間に対する自己制御の障害として位置づけました(Barkley, 1997)。さらに近年のレビューでも、成人ADHDにおいて、時間の経過を直感的に見積もる能力の弱さ(時間知覚の障害)が、注意の問題と並ぶ中心的な症状であることが指摘されています(Weissenberger et al., 2021)。

これは、いわゆる「時間盲」と呼ばれる感覚です。「あと3時間ある」と「あと3週間ある」の体感的な差が薄く、遠い締切は心理的にはほとんど”存在しないもの”として扱われてしまいます。本人としては、怠けているつもりも先延ばししているつもりもなく、ただ単純に「まだ先の話」という実感しか持てないまま、時間だけが過ぎていく、という状態に近いのではないかと思います。

なぜ「過集中」と「先延ばし」が同時に起こるのか

診察でよく受ける質問のひとつが、「集中力がないと言われるのに、好きなことには何時間も没頭できてしまう。これは矛盾していませんか」というものです。実はこれ、矛盾ではありません。ADHDにおける過集中(hyperfocus)は、興味や報酬のあるタスクに対してのみ強く発動する注意の状態であり、注意そのものが全体的に欠けているわけではなく、注意の配分を自分の意思でコントロールする機能――実行機能――の問題として説明されています(Hupfeld, Abagis, & Shah, 2019)。つまり、興味のあるものには過剰に吸い寄せられ、興味のないものにはまったく注意が向かない。先延ばしと過集中は、同じ特性の表と裏なのです。

実際の外来でも、こうした経過をたどる方に一定数お会いします(複数の方に共通する特徴をまとめた、一般化した例としてご紹介します)。仕事の資料作成や確定申告のような、締切はあるが本人にとって退屈な作業には何週間も手がつかない一方で、趣味の動画編集や調べものには、気づけば深夜まで没頭してしまう。本人はこの差を「自分がだらしないから」と説明しがちですが、実際には、脳がどちらのタスクにも同じ強さの注意を向けられない、という特性の問題であることのほうが多いように感じます。

興味のあることには没頭し、苦手なことには手がつかない様子を対比的に示すインフォグラフィックのイラスト

薬は「土台」をつくる――コンサータ・ストラテラ・インチュニブ、そしてアリピプラゾールの位置づけ

ここまでの仕組みを踏まえると、「薬を飲めば先延ばしは治るのか」という質問には、少し丁寧に答える必要があります。日本で承認されているADHD治療薬のうち、コンサータ(メチルフェニデート徐放剤)は、小児期ADHDへの適応で2007年に承認された後、2013年に成人期ADHDへの適応が追加されました(コンサータ錠 添付文書、PMDA承認情報)。中枢神経刺激薬として、ドパミン・ノルアドレナリンの働きを速やかに高め、報酬系の感度や注意の持続力を改善します。

ストラテラ(アトモキセチン)は、小児期ADHDへの適応で2009年に承認され、その後成人期ADHDへの適応が追加された、非中枢刺激性の薬剤です(ストラテラカプセル 添付文書、PMDA承認情報)。主にノルアドレナリンの働きを介して効果を発揮し、効果の実感までに数週間かかる点がコンサータとの大きな違いです。インチュニブ(グアンファシン)は2017年に小児期ADHDへの適応で承認され、2019年に成人期への適応が追加された薬で、α2Aアドレナリン受容体を介して作用します(インチュニブ錠 添付文書、PMDA承認情報)。

これらの薬は、報酬系の感度やワーキングメモリ、注意を持続させる力といった、「先延ばしが起こりやすい脳の状態」そのものを土台から整えてくれます。ただし、薬を飲んだ瞬間に先延ばしという行動パターン・習慣そのものが書き換わるわけではありません。土台が整った状態で、どう行動するかは、別の学習が必要になる、というのが実際の感覚に近いと思います。

ここで、「アリピプラゾール(エビリファイ)ではどうか」という質問についても触れておきます。アリピプラゾールは、統合失調症・双極性障害の躁症状・うつ病の補助療法・小児期の自閉スペクトラム症(ASD)に伴う易刺激性などに対する薬であり、日本においてADHDそのものへの保険適応は持っていません。自閉スペクトラム症とADHDが併存し、易刺激性や衝動的な行動のコントロールが課題になっているケースで、補助的・適応外(オフラベル)に検討されることはありますが、不注意や先延ばしといったADHDの中核症状そのものへの第一選択薬ではない、という位置づけを誤解のないようお伝えしておきます。

心理教育と行動療法――土台の上に積む、具体的な使い方

薬によって土台が整った後、あるいは薬を使わない方であっても、行動そのものを変えていく働きかけとしてエビデンスが蓄積しているのが認知行動療法(CBT)です。成人ADHDを対象としたコクラン・レビューでは、CBTが待機群と比べて、医師評価・自己評価の両方でADHD症状を改善し、薬物療法にCBTを組み合わせることで、薬物療法単独より中核症状の改善が大きくなることが報告されています(Lopez et al., Cochrane Database Syst Rev, 2018)。

当院で実際にお伝えしている工夫は、決して特別なものではありません。「やる気が出たらやる」ではなく、先に小さな行動を起こすことで気分が後から追いついてくるという行動活性化の考え方、「とりあえず5分だけ」と決めて着手の心理的な壁を下げる方法、大きすぎるタスクを「次にやる一歩」まで分解すること、そして時間盲を補うためにタイマーやリストで時間とタスクを目に見える形にすること。診察の場では、こんなやりとりになることがあります。

患者「結局、締切の前日にならないとやらないんです。わかってるのに」

医師「締切前日の自分は、ちゃんと動けているんですね。その力があるなら、”締切”をもっと手前に、自分で作ってしまうのはどうでしょう」

患者「自分で締切を作る、ですか」

医師「はい。本当の締切の3日前を”自分の締切”にして、終わらなくても一度そこで提出前の状態まで進める。遠すぎて見えなかった締切を、近くに引っ張ってくるようなイメージです」

こうした工夫は、どれも単体では小さなものです。けれど、脳の特性を前提にしたうえで積み重ねていくと、「気合で乗り切る」のとは違う手応えが出てくることが多いように感じています。

診察室で医師と患者が今後の工夫について穏やかに話し合っている様子のイラスト

「自分の意志が弱いから」で終わらせる前に

先延ばしは、怠けでも、だらしなさでもなく、報酬の感じ方・時間感覚・注意の配分という、脳の仕組みに根ざした現象であることが、研究の積み重ねによって少しずつ明らかになってきています。薬物療法は、その脳の状態を土台から整える手段であり、心理教育や行動療法は、整った土台の上で具体的にどう動くかを学ぶ手段です。どちらか一方だけでなく、両方を組み合わせて初めて、「わかってるのに動けない」という感覚が変わっていくことが多いと感じています。

「結局、自分の意志が弱いだけ」と一人で結論づけてしまう前に、一度、ご相談ください。脳の特性として理解したうえで、どこから手をつけられるか、一緒に考えていけたらと思います。

参考文献

  • Sonuga-Barke EJS. The dual pathway model of AD/HD: an elaboration of neuro-developmental characteristics. Neurosci Biobehav Rev. 2003;27(7):593-604.
  • Barkley RA. ADHD and the Nature of Self-Control. New York: Guilford Press; 1997.
  • Weissenberger S, et al. Time Perception Is a Focal Symptom of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Adults. Med Sci Monit. 2021.
  • Hupfeld KE, Abagis TR, Shah P. “Living in the zone”: hyperfocus in adult ADHD. ADHD Atten Deficit Hyperact Disord. 2019;11:191-208.
  • Lopez PL, Torrente FM, Ciapponi A, et al. Cognitive-behavioural interventions for attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2018;3:CD010840.
  • コンサータ錠18mg/27mg/36mg 添付文書・再審査報告書.医薬品医療機器総合機構(PMDA)承認情報.
  • ストラテラカプセル 添付文書・審査報告書.医薬品医療機器総合機構(PMDA)承認情報.
  • インチュニブ錠1mg/3mg 添付文書.医薬品医療機器総合機構(PMDA)承認情報.

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