求人

クリニックからのお知らせ

梅毒の治療、注射と飲み薬どっちがいいの? ─ 品薄のステルイズと、サワシリンで代替する今の現実

梅毒が増えています。これはもう何年も前から言われていることですが、当院でも実感として、率直に「多い」という印象を抱いています。今や2、3日にに何人かは必ずいる、という状況です。

治療薬に関しては、「ペニシリン」というのはご存知の方も多いかもしれません。ただ、「注射なの?飲み薬なの?」「どっちがちゃんと効くの?」という疑問を持つ方は多く、実際に診察室でも聞かれます。今日はこのあたりを整理して、現状をお話しします。

梅毒の治療の基本はペニシリン ─ これは昔も今も変わらない

梅毒の原因菌は Treponema pallidum(梅毒トレポネーマ)という細菌です。この菌に対しては、世界中で長年にわたって使われてきたペニシリン系抗菌薬が今でも第一選択です。驚くべきことに、耐性菌がほとんど報告されていない。他の細菌だと何十年も使っていれば耐性が問題になるのが普通ですが、梅毒トレポネーマはペニシリンに対してまだきちんと感受性を保っています。

CDC(米国疾病予防管理センター)の2021年版ガイドラインでも、WHO、日本性感染症学会の診療ガイドラインでも、一期・二期・早期潜伏梅毒に対してはベンジルペニシリン(ペニシリンG)の筋肉注射、または経口アモキシシリン(日本ではサワシリン)を推奨しています[1,2,3]

注射のほうが確実? ─ ステルイズが登場した経緯と現状

2023年、日本でステルイズ(ベンジルペニシリンベンザチン水和物、商品名:Bicillin L-Aの国内版)が承認されました。これは筋肉注射製剤で、1回の注射でペニシリン濃度を長期間維持できる「デポ製剤」と呼ばれるタイプです。

注射の最大の利点は、飲み忘れがないことです。飲み薬は毎日きちんと服用しないといけない。1か月飲み続けるのは、やはりある程度の負担があります。実際、「途中で飲み忘れが続いてしまいました」という患者さんは珍しくない。注射であれば1〜2回で済む場合があり、服薬アドヒアランス(薬をきちんと飲めているか)の問題がなくなります。

ただ──今、このステルイズが手に入らない状況が続いています。承認直後から需要が供給を大きく上回り、流通が極めて不安定なのです。当院でも入荷を試みていますが、現時点では安定的な調達ができていません。

これは当院だけの問題ではなく、全国的な状況です。今後、流通が安定してきた段階では積極的に導入したいと考えています。いまは残念ながら「準備はある、ただし時期待ち」という状態です。

では今どう治療しているのか ─ サワシリン(アモキシシリン)の内服

現状、当院では経口アモキシシリン(サワシリン)による内服治療を行っています。

具体的には、アモキシシリン 500mg を1日3回、28日間(4週間)服用というのが標準的なレジメンです[2,3]。これは日本性感染症学会ガイドラインおよびBASHH(英国性健康・HIV学会)ガイドラインでも支持されている方法です。

先日、30代の男性の方が来院されました。マッチングアプリで複数のパートナーとの性交渉があり、体に発疹が出てきたとのことでした。RPR・TPHA検査の結果、二期梅毒の診断でした。「1か月薬を飲み続けるのか……」とやや複雑な顔をされていましたが、「飲み忘れさえしなければ確実に効く薬です」とお伝えしたところ、しっかり完遂されました。1か月後のRPR再検査で値が低下しており、治療が奏効していると確認できました。

大事なのは、治療後の再検査です。梅毒の治療効果はRPR(非梅毒トレポネーマ抗体)の値で確認します。治療から3〜6か月後にRPRが十分に低下していることが、治療奏効の目安とされています[1]。TP抗体(梅毒トレポネーマ抗体)は治療後も陽性のまま残ることが多く、これは再感染や治療失敗を意味しません。混同されやすいので注意が必要です。

プロベネシドって何? ─ 補助薬の役割とエビデンス

アモキシシリンと一緒に「プロベネシド」という薬が処方されることがあります。これを見て「何の薬ですか?」と聞かれることがときどきあります。

プロベネシドはもともと痛風の治療薬として開発された薬ですが、腎臓でのペニシリン排泄を抑える作用があります。つまり、アモキシシリンを一緒に服用することで、血中のアモキシシリン濃度を高め、より長く維持するという目的で使われます。

Hook ら(1988)のランダム化比較試験をはじめ、複数の研究で、アモキシシリン+プロベネシド併用が梅毒に対して有効であることが示されています[4]。BASHHガイドライン(2023年版)でも、「アモキシシリン 500mg + プロベネシド 500mg、1日3回、14〜28日間」が早期梅毒に対する代替療法として書かれています[2]

ただし、プロベネシドについては一点注意があります。プロベネシドの梅毒に対する使用は、現在日本では保険適用外です。保険診療クリニックでは使いにくい状況にあります。海外では広く使われている方法であり、エビデンス上は問題ない組み合わせです。

また、プロベネシドには尿酸排泄促進作用があるため、尿路結石の既往がある方や、特定の薬を服用中の方では使いにくい場面もあります。当院では患者さんの状況に合わせて個別に判断しています。

ペニシリンアレルギーがある場合はどうする?

ペニシリン系抗菌薬にアレルギーがある方の場合、代替薬としてドキシサイクリン(100mg 1日2回、28日間)が使われます[1,3]。ただし、ドキシサイクリンは神経梅毒や先天梅毒には効果が不十分であり、妊娠中も使用できません。その場合はアレルギー専門医での減感作療法(脱感作)を考慮することになります。

自己申告の「ペニシリンアレルギー」は、実は再評価すると真の即時型アレルギーでないことも多く、CDCは可能であればアレルギー評価・脱感作を推奨しています[1]。来院時にアレルギー歴を教えていただけると、適切な治療の選択に役立ちます。

治療終了後、いつ再検査を受けるべきか

飲み薬を飲み切っても、それで終わりではありません。梅毒治療において「RPRが下がっているかどうかの確認」は治療と同じくらい重要です。

当院では、服薬完了後おおむね3か月後に再検査を行い、RPRの低下を確認しています。4倍以上(2管希釈以上)の低下が目標です[1,3]。低下が不十分な場合は、再感染か治療失敗の可能性を検討します。

「薬を飲み終わったら治った気がする」という方は多いのですが、梅毒の場合は特に数値での確認が欠かせません。症状が消えても菌が残っていることがあるためです。これは患者さんにとって少し面倒に感じるかもしれませんが、「治ったことを確認する」という意味で、ぜひ再診していただきたいと思っています。

当院での梅毒診療の流れ

当院(シティライトクリニック歌舞伎町)では、梅毒の血液検査(RPR・TPHA)を当日に施行しています。結果は最短で当日中、または翌日にお伝えすることができます。

診断がついた場合は、アレルギー歴や他の服薬状況を確認した上で、アモキシシリン(サワシリン)による4週間の内服治療を開始します。必要に応じてプロベネシドを併用します。ステルイズ(筋注ペニシリン)については、流通が安定し次第、選択肢として提供できる体制を整える予定です。

治療後の再検査も当院で対応しています。性感染症は再感染のリスクもあるため、パートナーへの通知や、性行為の一時的な中断についても、必要であればご相談ください。

梅毒は、きちんと治療すれば治る病気です。受診をためらっている方がいれば、まず検査だけでも来ていただければと思います。

まとめ

  • 梅毒の治療はペニシリン系抗菌薬が世界標準。耐性菌の報告はほぼない。
  • 注射製剤(ステルイズ)は服薬アドヒアランス面で優れるが、現在国内で供給不安定。流通安定後に導入予定。
  • 現状はサワシリン(アモキシシリン)内服28日間が主体。エビデンスは確立されている。
  • プロベネシド併用でアモキシシリンの血中濃度を維持する方法も有効。ただし日本では保険外。
  • 治療後3か月でのRPR再検査が必須。値の低下を確認して初めて治療完了となる。

参考文献

[1] Centers for Disease Control and Prevention. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1-187. https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/syphilis.htm

[2] Kingston M, et al. UK national guidelines on the management of syphilis 2015 (Updated 2023). Int J STD AIDS. BASHH guidelines. https://www.bashh.org/guidelines

[3] 日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2023. 日性感染症会誌. 2023.

[4] Hook EW 3rd, et al. Efficacy of penicillin for early syphilis: Randomized trial. Lancet. 1988;331(8590):881-884. IF: 168.9(2022)

[5] Ghanem KG, et al. Neurosyphilis, ocular syphilis, and otosyphilis. Clin Infect Dis. 2020;71(6):1519-1529. IF: 20.4(2022)

一覧へ戻る