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頓服(とんぷく)薬の正しい使い方|精神科医が教える”飲むタイミング”と注意点
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「先生、この薬って毎日飲むんですか? それとも辛いときだけ?」
外来をやっていると、一日に何度かこの質問を受けます。処方箋を見て、「1日3回」と書いてある薬と、「不安時」「不眠時」と書いてある薬が混在していて、混乱される方はとても多いのです。
「先生、出勤前にすごく不安になるんです。デパスをもらってるけど、毎日飲んでいいんですか? それとも本当にヤバいときだけ?」と。
この「本当にヤバいとき」という言葉が、実は頓服薬の本質をよく言い当てています。
頓服(とんぷく)というのは、症状が出たとき、あるいは出そうなときに「そのタイミングで」飲む薬のことです。毎日決まった時間に飲む薬——いわゆる定時薬とは、そもそも薬の使い方の哲学が違います。今日はこの違いと、正しい使い方、そして意外と知られていない「反跳性不安」の話をしたいと思います。

頓服薬と定時薬——「効かせ方の設計」がまるで違う
まず、定時薬(毎日飲む薬)の考え方を簡単に説明させてください。
たとえば抗うつ薬のSSRIを「1日1回朝食後」と処方するとき、私が狙っているのは定常状態(steady state)です。薬を毎日決まったタイミングで飲み続けると、血中濃度が一定の範囲に収まるようになる。高すぎず、低すぎず、常にじわっと効いている状態。だいたい半減期の4〜5倍の時間を経過すると定常状態に達するとされています(Greenblatt DJ et al., N Engl J Med, 19911))。
この仕組みは、たとえるなら「お風呂に一定量のお湯を入れ続けて、排水口からも少しずつ流れ出ていて、水位がちょうどいいところで安定する」ようなものです。毎日飲むことで、ようやくその安定した水位に達する。
一方、頓服薬はまったく違います。
頓服は、血中濃度がゼロの状態から、ピーク(Cmax)に持っていき、その急峻なカーブで症状を抑えることを狙っています。お風呂のたとえで言えば、「空のたらいにバッと熱湯を入れて、その熱で手を温めて、あとはまた空にする」という感じでしょうか。瞬発力勝負です。
だから頓服薬は、「どれくらい早く効くか(Tmax)」と「どれくらいで効果が切れるか(半減期)」が、薬を選ぶうえで非常に重要になります。
精神科でよく使う頓服薬——それぞれの「速さ」と「持ち」
実際に当院でも処方頻度が高い薬について、薬物動態(飲んでから体の中でどう動くか)のデータを整理してみます。
| 薬剤名(先発品名) | Tmax(効果ピークまで) | 消失半減期 | 作用の特徴 |
|---|---|---|---|
| エチゾラム(デパス) | 0.5〜2時間 | 約3.4時間(※活性代謝物は約8時間) | 速効・超短時間型。効果のキレが鋭い |
| アルプラゾラム(ソラナックス) | 1〜2時間 | 約11時間(範囲6〜27時間) | 中間型。パニック障害に適応あり |
| ブロマゼパム(レキソタン) | 0.5〜4時間 | 約17〜20時間 | 中〜長時間型。やや穏やかに効く |
| リスペリドン(リスパダール) | 約1時間 | 約3時間(※活性代謝物は約20時間) | 抗精神病薬。強い興奮・焦燥に使用 |
※データはFracasso C et al. (Eur J Clin Pharmacol, 1991)2)、FDA Label (Xanax)3)、Lexotan Product Information4)、Risperdal FDA Label5) 等を参考にまとめています。個人差があり、肝機能・年齢・併用薬により大きく変動します。
「デパスが一番効く」——それは本当か
「デパスが一番よく効くんですけど」とおっしゃる方は非常に多いです。ひょっとしたら、これを読んでいるあなたもそう思っているかもしれません。
実はこれ、薬理学的にはかなり理にかなっています。デパス(エチゾラム)はTmaxが約30分〜2時間、消失半減期がわずか3.4時間という、頓服にはうってつけの薬物動態を持っています2)。飲んだら速く効いて、比較的速く抜ける。だから「効いた!」という体感が得やすい。
ただ、ここに落とし穴があるんです。
反跳性不安(リバウンド)——短い薬ほど注意が必要なわけ
血中濃度が急激に上がって、急激に下がる薬——これはつまり、脳が「急にGABAの増強が来て、急に去っていく」という体験をするわけです。
この急激な変動こそが、反跳性不安(rebound anxiety)の原因になります。
反跳性不安というのは、薬が切れたあとに、元の不安よりもさらに強い不安が一時的に出現する現象です。Petursson(1994)のレビューでは、短時間作用型のベンゾジアゼピンの方が、長時間作用型と比較してリバウンド症状がより強く出やすいことが報告されています6)。また、Rickels ら(1988)の二重盲検プラセボ対照試験でも、急な中止で44%の患者に反跳性不安が認められ、漸減群ではゼロだったと報告されています7)。
これはどういうことか。デパスを頓服で飲んで、2〜3時間後に効果が切れてくると、「なんかまた不安になってきた……もう1錠飲もうかな」となりやすい。本来の不安の症状なのか、リバウンドなのかの区別がつきにくい。結果として、頓服なのに1日何回も飲んでしまう、ということが起きます。
当院でも、初診で来られた方が「前の病院でデパスを1日6錠飲んでいた」とおっしゃることがあります。それは依存というより、反跳性不安に追いかけられていたのだと思います。

じゃあ、頓服にはどの薬がいいのか?
これは本当に人それぞれ、としか言えない部分があるのですが、薬物動態の観点からいくつかの傾向はお伝えできます。
「すぐ効いてほしい」けど「リバウンドは困る」場合
アルプラゾラム(ソラナックス)が一つの選択肢です。Tmaxは1〜2時間とそれなりに速く、半減期は約11時間あるので、デパスほど急激に血中濃度が落ちません3)。パニック発作が起きる方に対しても適応がありますし、頓服として「効果のカーブがなだらかに降りていく」ので、リバウンドのリスクはデパスより低いと考えられます。
「数時間じゃ足りない、半日は持ってほしい」場合
ブロマゼパム(レキソタン)は半減期が17〜20時間あり4)、頓服として使うと効果がかなりゆるやかに持続します。ピークまでの時間がやや長い(0.5〜4時間)ので「今すぐ楽になりたい」というときにはもどかしく感じるかもしれませんが、その分、切れ際の不快感は少ない。夜勤の前に1錠飲んで、勤務中ずっとほんのり効いていてほしい、という使い方には向いています。
不安ではなく「強い興奮・焦燥・幻聴」がある場合
リスペリドン(リスパダール)の液剤は、ベンゾジアゼピンとはまったく違うメカニズム(ドパミンD2受容体遮断)で作用します。Tmaxが約1時間と速く5)、統合失調症の急性増悪だけでなく、強い焦燥感やイライラ、衝動性が強い場面で頓服として使うことがあります。ただし、ベンゾジアゼピンのような「ふわっと楽になる」感覚は得られないので、不安が主訴の方には通常使いません。
頓服を「安全に」使うための3つの考え方
1. 「効いた」と感じる前に飲む
頓服の理想的な使い方は、「症状がピークに達してから飲む」のではなく、「あ、これからマズいな」と感じた段階で飲むことです。血中濃度がTmaxに達するまでに30分〜2時間かかるわけですから、パニック発作の最中に飲んでも、効果が出る頃には発作自体がおさまっていることも多い。予兆を捉えて早めに使う——これが頓服の王道です。
2. 使用頻度を記録する
頓服が週に3回以上必要な状況が続いているなら、それは頓服の適応ではなく、定時薬の見直しが必要なサインかもしれません。手帳でもスマホのメモでもいいので、「何月何日、何時に、どんな状況で飲んだか」を簡単に記録しておいてくれると、診察でものすごく助かります。
3. 短時間型を連用しない
デパスのような超短時間型を毎日のように頓服で使っていると、反跳性不安のサイクルに入りやすくなります。もしそのパターンに心当たりがあるなら、一度主治医に相談して、より半減期の長い薬に切り替えるか、定時薬を調整するか、一緒に考えましょう。
「飲むのが怖い」という気持ちもわかります
逆に、「薬に頼るのが怖い」「依存しそうで飲めない」という方もいます。特にネットで「ベンゾジアゼピン 依存」と検索すると、かなり怖い情報が出てきますよね。
もちろん、漫然と大量に使い続ければリスクはあります。でも、適切な量を、適切なタイミングで、主治医と相談しながら使う分には、頓服薬は生活の質を大きく改善してくれるツールです。
不安で眠れない夜が続いて、仕事に行けなくなる。パニック発作が怖くて電車に乗れない。——そういう状況で「薬を使わずに我慢する」ことが、本当にあなたのためになるのかどうか。薬を使って生活を立て直して、そのうえで少しずつ薬を減らしていく、というのが精神科のスタンダードな治療の流れです。

当院は場所柄、夜に働かれている方が多く来院されます。出勤前の強い不安、接客中の緊張、昼夜逆転の生活リズムのなかでの不眠——こうした悩みに対して、頓服薬は実際にとても役立っています。
ただし、私が大切にしているのは、「頓服に頼り切る処方」にしないことです。頓服はあくまで「急場をしのぐ」ための道具であって、土台の治療は定時薬や生活の調整で支えるものです。初診の際には、今飲んでいる薬の種類・量・頻度を丁寧に確認して、必要に応じて処方の組み立て直しを一緒に考えます。
頓服の使い方がうまくいかない、前の病院で出された薬がどんどん増えてしまった、という方は、一度ご相談いただければと思います。
参考文献
- Greenblatt DJ, Harmatz JS, Shader RI. Clinical pharmacokinetics of anxiolytics and hypnotics in the elderly. Therapeutic considerations (Part I). Clin Pharmacokinet. 1991;21(3):165-177.
- Fracasso C, Confalonieri S, Garattini S, Caccia S. Single and multiple dose pharmacokinetics of etizolam in healthy subjects. Eur J Clin Pharmacol. 1991;40(2):181-185.
- U.S. FDA. XANAX® (alprazolam) tablets prescribing information. Accessed 2025.
- Roche. Lexotan® (bromazepam) Product Information. 2017.
- Janssen. RISPERDAL® (risperidone) FDA prescribing information. Accessed 2025.
- Petursson H. The benzodiazepine withdrawal syndrome. Addiction. 1994;89(11):1455-1459.
- Rickels K, Schweizer E, Case WG, Greenblatt DJ. Long-term therapeutic use of benzodiazepines. I. Effects of abrupt discontinuation. Arch Gen Psychiatry. 1990;47(10):899-907.
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