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「エッチの時に奥が痛い…」それは性病?性交痛に隠れた危険なサインと、病院へ行くべきタイミング【医師解説】

「エッチの時に奥が痛い…」それは性病?性交痛に隠れた危険なサインと、病院へ行くべきタイミング【医師解説】
先日も、仕事終わりの深夜帯、駆け込むように来院された患者さんがいました。
「なんか最近、性交痛?? 奥の方が痛いんです。前は平気だったのに、響くというか……これって性病ですか?」
彼女は不安そうに眉をひそめていました。実は、こういった「性交痛(せいこうつう)」の相談は、当院では非常に多いのです。「濡れてないだけかな?」「相手が乱暴だったからかな?」と自分を納得させて、ロキソニンを飲んで誤魔化している人もいるかもしれません。
しかし、医師として正直に言います。痛みは体が発している「非常事態宣言」です。
今日は、見過ごされがちな「性交痛」の裏に潜む、性感染症のリスクと、それ以外の原因について、少し冷静にお話ししようと思います。
【ここに生成されたイラストを配置】
「痛い場所」はどこ? 入り口か、それとも奥か
まず、診察室で私が最初に聞くのは「どこが痛いですか?」という質問です。
一言で「痛い」と言っても、医学的には大きく2つに分けられます。これを区別することが、犯人探しの第一歩になります。
1. 入り口が痛い場合(挿入時痛)
挿入しようとした瞬間や、浅い部分がヒリヒリ痛むパターンです。
これは、「潤滑不足(濡れていない)」が原因のことも多いですが、性感染症の視点で見ると「性器ヘルペス」や「カンジダ膣炎」、あるいは「トリコモナス」などで外陰部(アソコの外側)が荒れている可能性があります。
ヘルペスだと潰瘍(ただれ)ができているので、擦れると飛び上がるほど痛い。これは見た目でわかることも多いですね。
2. 奥が痛い場合(衝突痛・深部痛)
今回特に注意喚起したいのがこちらです。「奥を突かれるとズーンと痛い」「下腹部に響く」という症状。
これは、膣の奥にある子宮や、その周りの臓器が炎症を起こしている可能性が高いです。
そして、このパターンの時に一番に疑わなければならないのが、「クラミジア」や「淋菌」による骨盤内炎症性疾患(PID)なのです。
なぜ「奥が痛い」のが危険なのか? PIDの話
ここで少し専門用語の解説をさせてください。
「骨盤内炎症性疾患(PID)」という言葉、聞いたことはありますか? 文字通り、骨盤の中(子宮や卵管、卵巣など)が火事になっている状態です。
クラミジアや淋菌は、最初は子宮の入り口(子宮頸管)に感染します。この段階では無症状のことも多いです。
しかし、放置して菌が奥へ奥へと侵入していくと、子宮の中、さらには卵管やお腹の中へと炎症が広がります。こうなると、性行為の振動や物理的な刺激で、炎症を起こしている臓器が揺らされ、激痛が走るのです。
”骨盤内炎症性疾患(PID)の主な原因菌としては、淋菌(N. gonorrhoeae)とクラミジア(C. trachomatis)が挙げられる。これらの性感染症を未治療のまま放置することは、将来的な不妊や慢性骨盤痛の重大なリスク因子となる。”
(参考文献:Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. / 日本性感染症学会 性感染症 診断・治療ガイドライン 2020)
つまり、「最近痛いな」と思った時点で、すでに菌がお腹の中で広がっているかもしれないのです。これを「ただの生理痛の重い版」と勘違いしていると、将来、子供が欲しいと思った時に「卵管が詰まっていて自然妊娠できない」という事態になりかねません。
性病じゃなかったら何? もう一つの可能性「子宮内膜症」
もちろん、全ての性交痛が性病というわけではありません。
検査をして、クラミジアも淋菌も陰性だった場合、次に考えるのは「子宮内膜症」です。
子宮内膜症があると、子宮と周りの臓器(腸など)が癒着(くっつくこと)してしまい、性行為のたびに癒着部分が引っ張られて痛みが出ます。
ただ、私たちのような性感染症クリニックの役割は、「まずは感染症(うつるもの、進行が早いもの)を否定する」ことにあります。
感染症であれば、抗生物質でスッキリ治ります。逆に、感染症を見逃したまま「内膜症かな?」と様子を見ている間に、お腹の中で菌が増殖してしまうのが一番怖いのです。
当院での診療アプローチ:実際の現場から
ある患者さん(Mさん・20代)の例をお話ししましょう。
Mさんは「彼氏が変わってから、行為のたびにお腹が痛い。相性が悪いのかな」と来院されました。
内診(お腹の上からの触診と、膣からの診察)をすると、子宮を軽く動かしただけで「痛っ!」と声を上げられました。これは「子宮頸部移動痛」といって、PIDの特徴的なサインです。
当院では、すぐに高感度の即日検査を行い、同時にPIDを想定した抗生物質の治療を開始しました。
結果はやはりクラミジア陽性。
1週間の投薬で、Mさんは「嘘みたいに痛みが消えました。相性のせいじゃなかったんですね」と笑っていました。
なぜ「とりあえず検査」が必要なのか
当院が自費診療に特化している理由の一つは、ここにあります。
保険診療だと、手順を踏んで検査結果を待って…と時間がかかることがありますが、痛みがある場合、一刻も早く炎症を止めたいですよね。
また、クラミジアだけでなく、マイコプラズマやウレアプラズマといった、一般の検診では見逃されがちな菌が原因のこともあります。
「原因不明の痛み」ほど不安なものはありません。
当院では、性交痛がある場合、主要な性感染症を網羅的に検査し、必要であればその場で治療を開始する方針をとっています。これが、患者さんの心と体を守る最短ルートだと信じているからです。
おわりに:我慢強さは、ここでは捨ててください
「仕事だから仕方ない」「痛いなんて言ったら雰囲気が壊れる」
そう思って我慢している人がいたら、どうかその考えを少しだけ横に置いてください。
性交痛は、あなたの体があなたを守ろうとして鳴らしている警報です。
性病であれば、薬で治ります。痛みから解放されれば、仕事もプライベートももっと前向きになれるはずです。
新宿の片隅で、私たちは「冷静なプロ」として、あなたの痛みの原因を一緒に探します。
「なんか痛いかも」と思ったら、気軽な気持ちでドアを叩いてください。説教もしなければ、詮索もしません。ただ、医学的に正しい解決策を提示します。
参考文献:
1. 日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2020.
2. Workowski KA, Bachmann LH, Chan PA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep 2021;70(No. RR-4):1–187.
03-6265-9265