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疲れているのに眠れない?あなたが「寝つきが悪い」本当の理由|新宿歌舞伎町の精神科医

疲れているのに眠れない?夜職のあなたが「寝つきが悪い」本当の理由|新宿歌舞伎町の精神科医のエッセイ

疲れているのに眠れない?夜職のあなたが「寝つきが悪い」本当の理由

クリニックの扉を叩く患者さんの多くは、まさにその時間帯まで働き、心身をすり減らしているナイトワーカーの方々が多いです。。ホスト、キャバクラ嬢、風俗関係のお仕事…。華やかに見える世界の裏側で、皆さんが抱える悩みは深く、そして共通しています。

その中でも、最も多い訴えの一つが、「眠れない」というものです。特に、「布団に入っても、これから寝なきゃいけないのに、目が冴えてしまう」「体は重いのに、脳だけが興奮している感じがする」といった、入眠困難の悩みです。

診察室でみなさんの話を聞いていると、そこには単なる「夜更かし」では片付けられない、夜の街特有の構造的な問題が見えてきます。今日は、そんな歌舞伎町の診察室から見える「寝つきの悪さ」について、少しお話ししてみたいと思います。

なぜ「夜職」は寝つきが悪くなるのか?生活リズムと光の罠

「先生、私、昼夜逆転してるから仕方ないんですかね?」

先日来院された20代後半のキャバクラ勤務のAさんは、諦めたようにそう笑いました。彼女の仕事は深夜1時に終わり、アフター(店外での接客)があれば帰宅は明け方4時過ぎ。そこからシャワーを浴び、髪を乾かし、ようやくベッドに入る頃には空が白んでいます。

私たちの体には「体内時計」が備わっており、通常は朝の光を浴びることでリセットされ、夜になると「メラトニン」という睡眠を促すホルモンが分泌されます。しかし、Aさんのような生活では、このリズムが根本から崩れてしまいます。

医学的には概日リズム睡眠・覚醒障害(睡眠・覚醒相後退障害など)と診断されることもありますが、夜職の方にとっては、これが「日常」なのです。

本来、体が活動モードに入るべき朝の時間帯に眠ろうとし、体が休息モードに入るべき夜の時間帯に、強い照明と大音量の音楽の中で交感神経をフル稼働させて働いている。これでは、脳がいつ「オフ」にしていいのか混乱してしまうのは当然です。

私がAさんに伝えたのは、「完璧な昼型に戻すのは難しいけれど、リズムの『ズレ』を少し調整するだけで、寝つきは変わるかもしれない」ということでした。

お酒の力を借りて眠ろうとしていませんか?「寝酒」の代償

歌舞伎町で働く患者さんたちにとって、切っても切り離せないのがお酒です。仕事中に大量に飲むことはもちろんですが、私が特に懸念しているのは、帰宅後の「寝酒」です。

「家に帰っても仕事の興奮が冷めなくて、つい缶チューハイを2、3本空けてしまうんです。そうしないと気絶できないというか…」とAさんも言っていました。

確かに、アルコールには中枢神経を抑制する作用があり、一時的に入眠を早める効果はあります。しかし、これは「良質な睡眠」とは程遠い、脳を麻痺させている状態に近いのです。

アルコールは体内で分解される過程で「アセトアルデヒド」という物質に変わり、これが交感神経を刺激します。その結果、睡眠の後半で眠りが浅くなり、中途覚醒(夜中に目が覚める)が増え、早朝覚醒(朝早く目が覚めて二度寝できない)を引き起こします。さらに、アルコールは利尿作用があるため、トイレで起きる回数も増えてしまいます。

“アルコールは入眠を促進するが,睡眠後半の睡眠を障害し,全体の睡眠の質を悪化させる。”

(引用:厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと睡眠」より)

結果として、「長く寝たはずなのに疲れが取れない」「朝起きても頭がぼーっとする」という悪循環に陥ってしまうのです。これは、日々のパフォーマンスを維持しなければならないナイトワーカーにとっては致命的とも言えます。

睡眠薬は怖い?正しい治療の選択肢

「睡眠薬って、一度飲んだらやめられなくなるんでしょう?ボケるって聞いたし…」

Aさんに限らず、多くの患者さんが睡眠薬に対して強い警戒心を持っています。確かに、かつて主流だったベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、依存性や耐性(効きにくくなる)、ふらつきといった副作用の懸念がありました。

しかし、ここ数年で不眠症治療の現場は大きく変わっています。医師として冷静にお伝えしたいのは、現在は依存性のリスクが非常に低い、新しいタイプの薬が登場しているという事実です。

現在主流となりつつある新しい選択肢

  • オレキシン受容体拮抗薬(例:レンボレキサント、スボレキサントなど):
    脳の覚醒システム(オレキシン)の働きを抑えることで、自然な眠りを促します。依存性が極めて低く、入眠困難だけでなく中途覚醒にも効果が期待できます。当院でも第一選択として処方することが増えています。
  • メラトニン受容体作動薬(例:ラメルテオン):
    体内時計を調節するホルモン「メラトニン」の働きを模倣し、自然な眠気をもたらします。生活リズムが崩れている方に適しています。

これらの薬は、お酒で無理やり脳をシャットダウンさせるのとは異なり、本来の睡眠リズムを取り戻す手助けをしてくれるものです。

もちろん、薬はあくまで補助的なものです。しかし、慢性的な睡眠不足によってメンタルヘルスが悪化し、うつ状態などに陥るリスクを考えれば、適切に薬物療法を取り入れることは、自分を守るための賢い選択だと私は考えています。

薬以外でできること:ビタミンと日光の意外な効果

診察の最後に、Aさんには薬の処方と併せて、二つのアドバイスをしました。それは「ビタミン摂取」と「日光浴」です。

不規則な食生活になりがちな夜職の方には、ビタミン不足が見られることが少なくありません。特にビタミンB12は、睡眠のリズムを整える働きに関与していると言われています。また、現代人に不足しがちなビタミンDも、睡眠の質に関係しているという研究報告があります。

そして、何より大切なのが日光です。 「起きる時間が昼過ぎでも夕方でも構いません。起きたらまずカーテンを開けて、数分でいいので窓際で太陽の光を目に入れてください」

網膜から入った光の刺激が脳に届くことで、ずれてしまった体内時計のスイッチがリセットされます。これが、その日の夜のメラトニン分泌の準備になるのです。昼夜逆転の生活であっても、この「光によるリセット」を意識するだけで、睡眠の質は少しずつ変わってきます。

Aさんは少し半信半疑な様子でしたが、「まずはカーテンを開けることから始めてみます」と言って帰っていきました。

寝つきの悪さは、体からのSOSです。歌舞伎町という特殊な環境で戦うあなただからこそ、そのサインを見逃さないでください。お酒でごまかすのではなく、一度専門家の視点を入れて、生活と睡眠を見直してみませんか。当院の扉は、いつでも開いています。

参考文献

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット. アルコールと睡眠. Available from: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html [Accessed 2024-05-16].
  • 日本睡眠学会 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン作成委員会. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン. 2013.

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