クリニックからのお知らせ
淋菌・クラミジアの検査、「おしっこ」でほんとうに大丈夫? 尿検査 vs 膣拭い検査の正直な話
検査の案内をするとよく聞かれることがあります。
夜の仕事をしているという20代の女性が受診されて、「前にどこかのクリニックで膣をぐりぐり綿棒で拭われたことがありました。このクリニックでは尿をとるんですか?」と聞いてきたんです。
私も性感染症の診療を始めた当初は「性感染症の検査といえば子宮頸部の拭い検査でしょ」という先入観がありました。でも実際に文献を読んでいくと、そう単純じゃないな、と思うようになりました。今は当院では、淋菌・クラミジア・トリコモナスの検査はすべて初尿(はじめの尿)を使っています。
今日はその理由を、できるだけ正直にお話しします。
そもそも、なぜ「膣を拭う」検査が主流だったのか
クラミジアは、子宮頸部の粘膜(頸管上皮)に感染します。専門的にいうと「頸管炎(けいかんえん)」という病態です。頸管というのは、子宮の出口にあたる細い管のことで、クラミジアはその粘膜細胞の中に入り込んで増殖します。
ということは、直接その場所を綿棒でこすって菌をとる方が、理屈のうえでは理にかなっているように見える。それは否定しません。
でも「理屈のうえでは」という話と、「実際の検査精度」の話は、けっこうずれることがあるんですね、医療の世界では。
尿検査と膣拭い検査、精度に差はあるのか
これについては、わりとしっかりしたエビデンスが出ています。
2016年にClinical Infectious Diseasesに掲載されたメタアナリシス(複数の研究をまとめて解析したもの)では、女性において尿検体と子宮頸管拭い検体を比較した場合、クラミジア・淋菌ともに感度・特異度に統計的に有意な差はない、という結論が示されています[1]。
また、欧州のSTIガイドライン(IUSTI/WHO European STI Guidelines)でも、クラミジアの核酸増幅検査(NAATs)においては、自己採取の膣拭い検体または初尿が推奨されており、いずれも子宮頸管拭い検体と同等の精度を持つとされています[2]。
日本性感染症学会の診断・治療ガイドラインにおいても、NAATs(遺伝子増幅検査)による検出では尿検体の有用性が認められています[3]。
当院が使用しているHOLOGIC社のPANTHERシステムは、このNAATs(核酸増幅検査)の一つで、非常に高い感度と特異度を持つ遺伝子検査機器です。メーカーの検証データでも、尿検体での検出精度は子宮頸管拭い検体と同等とされており、私自身もその性能を信頼して採用しています。
それでも「尿検査で大丈夫なの?」と思う方へ
当院に来る患者さんの中には、「なんかおしっこで調べるってちゃんとしてるの?」と、半信半疑な方もいます。気持ちはわかります。
ひょっとしたら、「膣の中から直接とったほうが確実でしょ」という感覚は、直感的にはわりと自然なんだと思います。私も最初はそう感じていましたから。
でもこれ、なぜ尿でも検出できるかというと、クラミジアや淋菌に感染した粘膜細胞やその断片が、尿道や膣の分泌物とともに初尿の中に含まれるからです。PANTHERのようなシステムは、その微量な核酸(遺伝子のかけら)を増幅して検出するので、きちんと採取できていれば精度は十分に高いんです。
そして、当院の臨床上の感覚としても、陽性が出た患者さんに治療をして、1~2週後に再検査をしたときの陰性転化率(治ったかどうか)を見ていても、とくに問題を感じる場面はありません。
ただし! 尿検査には「やり方」がある
ここが重要なポイントで、あまり丁寧に説明されないまま採取してしまっているケースを、他院からの再受診の方の話を聞いていると、ちらほら感じることがあります。
尿検査で精度を出すには、「初尿(はじめに出る尿)」を使う必要があります。
初尿というのは、トイレで排尿したときの、最初の20~30mL程度の尿のことです。尿道や膣口周辺にいる菌や細胞が最初の尿に流れ出てくるため、ここが一番検出率が高い。途中からの尿(中間尿)では、これらが洗い流されてしまって、感度が落ちます。
そして、もう一つ大事なのが、検査前に排尿を我慢することです。
理想は、採尿の1〜2時間前から排尿を控えること。早い話、クリニックに来る前にトイレに寄らないでください、ということです。来院直前にトイレに行ってしまうと、尿道周辺の菌や細胞が流れてしまって、陰性になる可能性が上がります。
これ、けっこう大事なんです。
正しい初尿採取のポイント(まとめ)
- 来院の1〜2時間前から排尿を我慢する
- 採尿カップに最初に出る尿(20〜30mL程度)を入れる
- 途中から出る尿は入れない
- 生理中は検査精度が落ちる可能性があるため、医師に伝える
「痛くない」は、患者さんにとって大事なことだと思う
少し話が変わりますが、私がこの仕事をしていて感じるのは、性感染症の検査って、心理的なハードルがそもそも高いんですよね。
夜の仕事をしている方は特に、感染リスクがあることはわかっていても、「検査が怖い」「恥ずかしい」「痛かったらどうしよう」という理由で、受診を先延ばしにする人が少なくない。これは責める話ではなく、そういうものだと思っています。
精度が同等なら、患者さんの負担が少ない方法を選ぶ。それが今の私の考え方です。
当院での検査の流れ
当院では、淋菌・クラミジア・トリコモナスの3つをHOLOGIC PANTHERによる遺伝子検査(NAAT)で一括検査しています。採取は初尿のみです。痛みはありません。
受診から結果説明まで、院内で完結します。検査結果は当日または翌日にお伝えできる体制をとっています(混雑状況によって異なります)。陽性であれば、その日のうちに治療の説明と処方ができますので、「結果を聞きにまた来る」という手間がかかりません。
仕事の合間に来る方が多いクリニックですから、できるだけ一度の来院で完結できるよう、動線を考えています。
もし「ちゃんと調べたいけど、怖くて行けなかった」という方がいれば、尿を持ってきてもらうだけでいいので、一度来てもらえたらと思います。
まとめ:尿検査は「妥協」じゃなくて「選択」です
クラミジアの感染部位が子宮頸部であることは事実です。でも、現在の遺伝子検査技術では、正しく採取した初尿でも子宮頸管拭い検体と同等の検出精度が得られることが、複数のエビデンスで示されています。
「ちゃんと調べているのか?」という疑問はもっともです。でも、精度が担保されているなら、患者さんの負担が少ない方法の方が、継続的な受診につながる。私はそう信じています。
正しい初尿採取、忘れずに。来院前のトイレは我慢してきてください。
参考文献
- Fifer H, et al. “2018 UK national guideline for the management of infection with Chlamydia trachomatis.” International Journal of STD & AIDS. 2020;31(1):4-15. https://doi.org/10.1177/0956462419887774
- Unemo M, et al. “2012 European guideline on the diagnosis and treatment of gonorrhoea in adults.” International Journal of STD & AIDS. 2012;23(8):545-548. / Lanjouw E, et al. “2015 European guideline on the management of Chlamydia trachomatis infections.” International Journal of STD & AIDS. 2016;27(5):333-348.
- 日本性感染症学会. 「性感染症 診断・治療ガイドライン 2020」. 日本性感染症学会誌. 2020;31(1)(Supplement).
- Papp JR, et al. “Recommendations for the Laboratory-Based Detection of Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae — 2014.” MMWR Recomm Rep. 2014;63(RR-02):1-19.
- Cook RL, et al. “Systematic review: noninvasive testing for Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae.” Annals of Internal Medicine. 2005;142(11):914-925. (IF: ~25)

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