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梅毒の治療、注射と飲み薬はどう違う? 専門医が選び方を解説

梅毒の治療、注射と飲み薬はどう違う? 専門医が選び方を解説

梅毒の治療、注射と飲み薬はどう違う? 専門医が選び方を解説

梅毒と診断されると、「治療ってどんなの?」「注射と飲み薬、どっちがいいの?」という疑問をよく耳にします。実は、この「どちらを選ぶか」という問いは、患者さんにとっても、こちらとしても、けっこう悩ましいところがあります。今回は、この二つの治療法について、できるだけ率直にお話ししようと思います。


そもそも梅毒の治療に使う薬は?

梅毒の治療薬として世界的に標準とされているのは、ペニシリン系抗菌薬です。日本のガイドライン(日本性感染症学会)も、国際的なCDCのガイドラインも、ペニシリンが第一選択であることは変わりません[1][2]

具体的には、大きく二つの方法があります。

  • 注射剤:ベンジルペニシリンベンザチン(商品名:ステルイズ)
  • 内服薬:アモキシシリン(商品名:サワシリンなど)を1か月間服用

どちらもペニシリンという同じ系統の薬ですが、投与の方法も、体内での動き方も、かなり異なります。


注射(ステルイズ)ってどんな治療?

ステルイズは、「ベンジルペニシリンベンザチン」という長時間作用型のペニシリン製剤です。筋肉注射で1〜3回投与するだけで治療が完結するため、飲み忘れがなく、確実に薬が効くという大きなメリットがあります。

CDCや世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、この注射剤が梅毒治療のゴールドスタンダードとされており[2][3]、特に早期梅毒(一期・二期)においては1回の筋肉注射で高い治癒率が得られるとされています。

仕事柄、毎日確実に薬を飲み続けることが難しい患者さんも多いです。夜の仕事をしていると、昼夜逆転した生活リズムの中でうっかり飲み忘れることもある。そういう観点でも、注射という選択肢は非常に合理的だと思っています。

ただ、正直に申し上げると、現在国内ではステルイズの在庫が非常に逼迫しており、当院でも現時点では提供できない状況です。これは当院固有の問題ではなく、全国的な供給不足によるものです。ご不便をおかけして申し訳ありませんが、ご理解いただければ幸いです。


飲み薬(アモキシシリン1か月)はどういう治療?

アモキシシリンは、いわゆる「ペニシリン系の飲み薬」です。梅毒の原因菌であるTreponema pallidum(梅毒トレポネーマ)は、ペニシリンに対して非常に感受性が高く、適切な用量・期間で服用すれば高い有効性が期待できます[1]

日本では、ステルイズが長らく入手困難だったこともあり、アモキシシリンを1日3回、4週間(約1か月)継続する方法が広く行われてきました。日本性感染症学会のガイドラインでもこの方法が推奨されています[1]

ひょっとしたら「1か月飲み続けるのは大変じゃないか」と思われる方もいると思います。実際、外来でも「毎日ちゃんと飲めるか自信がない」とおっしゃる患者さんはそれなりにいます。それでも、アラームを設定したり、スマートフォンのリマインダーを活用したりすることで、多くの方がきちんと完遂されています。


注射と飲み薬、治療効果に差はある?

これはよく聞かれる質問です。理論的には、ステルイズ(注射)のほうが血中濃度が安定しやすく、確実性が高いとされています。特に神経梅毒や、治療完遂が不確実な状況では注射のほうが望ましいとされています[2][3]

一方で、アモキシシリンの経口療法も、きちんと服用さえすれば早期梅毒においては十分な有効性があるとされています。Ghanem et al.(2020)のレビューでも、経口ペニシリン療法は注射と同等の成績が得られる可能性があると述べられています[4]。重要なのは「確実に薬を届けること」です。

先日、こんな患者さんがいました。二期梅毒で、体中に皮疹が出ていた20代の方。仕事が夜中心で、昼間はほぼ活動していないと。「注射のほうが楽だったんですが……」とおっしゃっていましたが、現状ではアモキシシリンでの治療をお勧めするしかなく、飲み忘れ防止のためにスマホでのアラーム設定を一緒に考えました。その後、きちんと1か月服用され、血清反応も良好な経過を辿っています。理想と現実の間で折り合いをつけながら診療している、というのが正直なところです。


治療中・治療後に気をつけること

治療を始めた後、数時間〜1日以内に発熱・悪寒・発疹の悪化などが起きることがあります。これは「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」と呼ばれ、抗菌薬によって菌が大量に死滅するときに起きる炎症反応です[2]。怖い話に聞こえますが、通常は自然に治まります。事前にお伝えしておくと患者さんも安心できます。

また、治療終了後も梅毒血清検査(RPRまたはTPHA)のフォローアップが重要です。治療の効果を確認するために、3か月後・6か月後などに再検査を行います。陰性化するまでの経過を追うことが標準的な対応です[1]

そして言うまでもないことですが、治療中はパートナーへの感染リスクがあるため、性行為は控えるか、コンドームを使用することが原則です。パートナーにも検査を勧めてください。


当院での梅毒治療について

歌舞伎町という場所柄、梅毒の患者さんは毎週のように来られます。「陽性だったけど症状がないから放置していた」「パートナーが陽性だったので自分も心配で」など、来院のきっかけはさまざまです。

現在は、ステルイズの国内供給状況を踏まえ、アモキシシリンによる1か月内服療法を中心に行っています。治療開始前に血液検査で病期の確認を行い、一人ひとりに合わせた治療計画を立てています。仕事や生活スタイルに合わせた服薬指導も、できるだけ丁寧に行うようにしています。

梅毒は、適切に治療すれば完治できる病気です。診断されたからといって過度に落ち込む必要はありません。ただ、放置すると確実に進行し、後遺症が残ることもあります。「陽性かもしれない」「治療をちゃんと受けたい」と思ったら、早めにご相談ください。


まとめ

  • 梅毒治療の第一選択はペニシリン系薬。注射(ステルイズ)と内服(アモキシシリン1か月)の2つが主な方法。
  • 注射は1〜3回で完結し確実性が高いが、現在国内供給不足により当院では提供が難しい状況。
  • アモキシシリン1か月内服も、適切に服用すれば十分な有効性がある。
  • 治療後のフォローアップ(血清検査)と、パートナーへの対応も忘れずに。

参考文献

  1. 日本性感染症学会.性感染症 診断・治療 ガイドライン 2020.
  2. Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1–187. (CDC Guidelines)
  3. World Health Organization. Guidelines for the treatment of Treponema pallidum (syphilis). WHO, 2016.
  4. Ghanem KG, et al. The Modern Epidemic of Syphilis. N Engl J Med. 2020;382(9):845–854. (IF: 91.2)
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