クリニックからのお知らせ
淋菌・クラミジア・トリコモナス、治療したのに再検査が必要な理由とは?
「治療したから大丈夫」は本当? 淋菌・クラミジア・トリコモナスの再検査を怠ってはいけない理由
「先生、薬飲んだし、もう再検査しなくていいですよね?」
外来でこの言葉を聞く機会は、思いのほか多いです。気持ちはわかります。症状も消えた、薬も飲んだ、お金も時間もかかる、もういいじゃないか——そう感じるのは自然なことだと思います。ただ、性感染症の世界はそう単純ではなくて、治療後の再検査には、ちゃんとした臨床的な理由があります。
今日はそのことについて、少し丁寧に書いてみたいと思います。
治療したのに「実はまだ感染している」ケースがある
ある日の外来でのことです。20代の女性が「以前、他院でクラミジアと診断されて治療を受けたのですが、パートナーがまた症状があって……」と相談に来られました。検査をしてみると、クラミジアが陽性。再感染なのか、治りきっていなかったのか、その時点では判断が難しいことも少なくありません。
これはよくあることで、特に淋菌においては薬剤耐性(抗菌薬が効かない菌)の問題が世界的に深刻になっています。
WHOは2017年以降、淋菌の薬剤耐性を「優先度の高い脅威」と位置づけており、日本でもセフトリアキソン(注射の抗菌薬)に対する感受性の低下が報告されています[1]。つまり、「治療した」=「治った」とはならないケースが存在する、ということです。
トリコモナスも同様で、メトロニダゾールに対する耐性トリコモナスの報告は国内外にあり、治療が奏功しないことがあります[2]。
「もう陰性のはずなのに陽性」──TMA法という検査の特性を知っておいてほしい
当院では、クラミジア・淋菌・トリコモナスの検査にTMA法(Transcription-Mediated Amplification)という核酸増幅検査を用いています。これは非常に高感度・高精度な検査で、わずかな菌量でも検出できるのが特徴です。
ただ、高感度であることには、ひとつの落とし穴があります。
菌が死滅した後も、菌の核酸(DNAやRNA)の断片が体内に残っており、それを検出してしまうことがあるのです。つまり、治療がうまくいって菌はもういないのに、検査では「陽性」と出てしまう状態が生じ得ます。これは検査の精度が高いゆえの特性とも言えます。
こうした核酸残存による偽陽性の問題から、治療直後(1週間程度)の再検査は推奨されず、少なくとも3週間以上の間隔をあけることが望ましいとされています[3]。
1週間後に検査して「陽性でした」と言われると誰でも不安になります。ただその「陽性」が本当の再燃なのか、残骸のDNAを拾っているだけなのかは、その時点では区別できません。だからこそ、タイミングが重要なのです。
「症状がない=治った」ではない──無症状感染のこわさ
クラミジアは感染していても症状が出ないことが多い疾患です。女性では7〜8割が無症状とも言われており[4]、「症状がないから大丈夫」という判断が、慢性的な炎症や不妊につながるリスクがあります。
外来をしていて思うのですが、症状がない方ほど再検査に来ない傾向があります。症状があって「つらい」から受診して、症状が消えたから「治った」と判断してしまう。この流れが、ひそかに感染を持続させたり、パートナーに移し続ける原因になることがあります。
淋菌も同様で、女性は無症状のことが少なくありません。男性でも尿道炎の症状が軽い場合や、咽頭感染では症状がほぼないことがあります。
パートナーが治療していないと「ピンポン感染」が起きる
再検査が重要なもう一つの理由として、パートナーの治療状況の問題があります。
自分が治療を受けても、パートナーが検査・治療をしていなければ、性交渉の度に再感染を繰り返します。これをピンポン感染と呼びます。
「パートナーにも検査してもらって」とお伝えすると、「言いづらくて……」という方が多いのも現実です。ひょっとしたら、相手が検査を受けているかどうか確認していないまま再開している方もいらっしゃるのでは、と思うことがあります。
再検査で陽性が出た場合、再感染なのか治療失敗なのか、という視点でパートナーの状況も含めて考え直す必要があります。当院では、パートナーへの検査・治療についてもご相談いただけます。
治療後3週間後の再検査を当院が強くすすめる理由
以上を踏まえると、再検査のタイミングは治療終了から3週間後が適切です。理由をまとめると:
- TMA法の特性上、死菌の核酸が残存する期間(1〜2週間程度)を過ぎてから検査することで、より正確な結果が得られる
- 耐性菌による治療失敗を早期に発見できる
- 無症状で感染が持続していても検出できる
- パートナーからの再感染を確認できる
日本性感染症学会のガイドラインでも、治療後の効果判定としての再検査を行うことが推奨されており[5]、これは世界標準的な考え方とも合致しています。
「また来院するの?」と思われるかもしれませんが、性感染症は一度治療すれば終わり、という性質の病気ではありません。特にリスクの高い生活を送っている方においては、定期的な確認が、長期的に見て自分自身とパートナーを守る最善の方法です。
新宿・歌舞伎町で、受診しやすいクリニックを目指して
当院は新宿歌舞伎町で、性感染症の検査・治療を自費で行っているクリニックです。ナイトワークの方や、性行為のリスクを感じている方が、気軽に・正直に相談できる場所でありたいと思っています。
「治療したけど再検査って本当に必要?」「パートナーにも受けてもらいたいけど、どうすれば?」——そうした相談も、外来で遠慮なくお話しください。
症状の有無にかかわらず、治療後3週間を目安に、ぜひ再度ご来院ください。
参考文献
- World Health Organization. Global action plan to control the spread and impact of antimicrobial resistance in Neisseria gonorrhoeae. WHO, 2012. / Unemo M, et al. “Antimicrobial resistance in Neisseria gonorrhoeae: origin, evolution, and lessons learned for the future.” Ann N Y Acad Sci. 2019;1441(1):37–58.
- Kissinger P. “Trichomonas vaginalis: a review of epidemiologic, clinical and treatment issues.” BMC Infect Dis. 2015;15:307.
- Workowski KA, Bolan GA. “Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2015.” MMWR Recomm Rep. 2015;64(RR-03):1–137. (CDC STI Treatment Guidelines 2021も同様の推奨あり)
- Peipert JF. “Clinical practice. Genital chlamydial infections.” N Engl J Med. 2003;349(25):2424–2430.
- 日本性感染症学会. 『性感染症 診断・治療ガイドライン 2020』. 日本性感染症学会誌, 2020.
03-6265-9265