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睡眠薬を飲み続けて「効かなくなった」「もうやめられない」…それ、依存と耐性かもしれません
睡眠薬を飲み続けて「効かなくなった」「もうやめられない」
依存と耐性かもしれません
夜眠れない。それだけでも十分つらいです。「やっと眠れるようになった」と思ったら今度は薬が手放せなくなっていた——そういう経験をされている方、やはりいらっしゃいます。
夜の仕事をされている方にとって、睡眠は課題です。昼夜が逆転した生活リズム、帰宅してからの高揚感がなかなか収まらない感覚、騒音や光の中で眠ろうとする日常。そういう環境の中でいつの間にか睡眠薬が「ないと眠れないもの」になっていくプロセスを、外来で繰り返し目にしてきました。
今回は、睡眠薬の副作用として特に知っておいてほしい「依存」と「耐性」について、薬の種類ごとに整理してお話しします。「自分の飲んでいる薬、大丈夫かな」と思いながら読んでもらえるといいですね。
「昨日より多く飲まないと眠れない」——それが耐性のサイン
ベンゾジアゼピン系薬(BZD)、つまりデパスやハルシオン、レンドルミンといった薬は、脳内のGABAA受容体という「鎮静のスイッチ」に直接作用します。アクセルを踏み続けて覚醒状態にある脳に、いわばブレーキをかける薬わけです。
これが短期間なら有効です。ただ、継続的に服用しているうちに、脳はその「外からのブレーキ」に慣れていきます。受容体の感度が下がり、同じ量では以前ほど効かなくなる——これが「耐性(tolerance)」です。
Lader(2011)はじめ複数の基礎・臨床研究により、ベンゾジアゼピンの鎮静作用・抗けいれん作用に対する耐性は比較的短期間で形成されることが示されています。一方で、抗不安作用・健忘作用については必ずしも耐性が生じないという興味深い知見もあります(Lader M, 2011; Addolorato G et al.)。
つまり「眠れなくなる耐性」と「不安を抑える効果」は別々のスピードで変化しうる——この非対称性が長期処方を複雑にしています。
外来でよく聞くのは、「最初はこの薬で本当によく眠れたんですけど、いつからか効いてる感じがしなくて、また先生に追加してもらって…」という話です。薬の量や種類が少しずつ増えていく。処方した側(私も含め)も、見逃しがちです。
「やめようとしたら眠れなくなった」——それは依存、それともリバウンド?
耐性が生じているということは、同時に「体が薬を前提にした状態に適応している」ということでもあります。そこで急に薬をやめると、今度は脳が過興奮状態になり、不眠・不安・発汗・ときには振戦や痙攣を起こすことがあります。これが離脱症状(身体的依存)です。
患者さんからよく言われるのが、「薬をやめたら前より眠れなくなったから、やっぱり薬が必要なんです」という訴えです。でも実際には、それが離脱症状による不眠——いわゆる「反跳性不眠」であることがあります。もとの不眠がぶり返したのではなく、薬をやめた反動で生じている一時的な悪化です。
欧州不眠症ガイドライン2023改訂版は、ベンゾジアゼピン系・ベンゾジアゼピン受容体作動薬(Z薬)いずれも「短期使用(4週以内)」を推奨しており、長期使用は依存・耐性リスクの観点から慎重な利益・不利益の検討を求めています[2]。
また、日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(2014年)」においても、ベンゾジアゼピン系薬の長期投与は依存形成のリスクが高く、漸減・休薬を計画的に行うことが推奨されています[3]。
ただ、これは「依存している患者さんが悪い」という話では全くありません。依存は薬理作用として当然起こりうる現象であり、適切な情報提供なく処方され続けることで形成されていきます。
非ベンゾ系(ルネスタ・マイスリー)も「ベンゾじゃないから安心」とは言えない理由
「ベンゾジアゼピン系は怖いから、ゾルピデム(マイスリー)やエスゾピクロン(ルネスタ)にしてください」と希望される方がいます。気持ちはわかりますし、確かにこれらは「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれています。
しかし、厳密に言えばこれらは「ベンゾジアゼピン受容体作動薬(Z薬)」であり、同じGABAA受容体に作用します。アプローチがやや異なるとはいえ、依存や耐性が生じるメカニズムは本質的に変わりません。
Takeshima et al.(Frontiers in Psychiatry, 2024)の日本での後ろ向き研究を含む複数のエビデンスから、非ベンゾジアゼピン系Z薬もベンゾジアゼピン系と同様に、身体依存・耐性・筋弛緩作用・転倒リスクなどの副作用が生じうることが示されています[4]。「非ベンゾだから長期でも大丈夫」という認識は現在の医学的コンセンサスと一致しません。
マイスリー(ゾルピデム)で「夜中に食べていた」——夢遊病様行動という副作用
ゾルピデムには、特有の副作用があります。薬を飲んで眠りに入ったはずが、本人の記憶が全くないまま起き上がって冷蔵庫を開け、食事をしている。あるいは車を運転しようとしている。これを「夢遊病状態」と表現する方が多いですが、医学的にはcomplex sleep behaviorsと呼ばれます。
米国FDAは2019年に、ゾルピデムをはじめとするZ薬の添付文書にブラックボックス警告を追加し、睡眠中の歩行・運転・調理・その他の行動について強い注意喚起を行っています[5]。これらは「推奨用量でも起こりうる」とされており、特にアルコールや他の中枢神経抑制薬との併用、高齢者などでリスクが高まります。
こういった副作用は、単独では発見しにくいのが難しいところです。
ベルソムラ・クービビックの「悪夢が増えた」は薬の作用機序から考えると合理的な副作用です
近年、「依存しにくい睡眠薬」として注目されているのがオレキシン受容体拮抗薬(ORA)です。スボレキサント(ベルソムラ®)とレンボレキサント(デエビゴ®)が日本で使用できます。「クービビック」はスボレキサントの製品名で使われることがあります。
これらはGABA系ではなく、「覚醒を維持するオレキシンというシステムをブロックする」ことで睡眠を促します。アクセルを踏んでいる状態を緩める、というイメージです。GABAを介した依存メカニズムとは異なるため、依存や耐性が生じにくいとされています。
ただ——ここが重要なのですが——ORAsにはレム睡眠が増加するという作用があります。レム睡眠は夢を見やすい睡眠段階です。そのため、一部の患者さんで「悪夢が増えた」「怖い夢を見るようになった」という訴えが出てきます。
Tabata et al.(2017)の症例報告を含む複数の研究で、スボレキサント服用後にレム睡眠行動障害や悪夢が増加した症例が報告されています。Katsuki et al.(Psychiatry and Clinical Neurosciences, 2024)の後ろ向き研究でも、特に非高齢者(若年〜中年層)でスボレキサントによる悪夢の発生率が高い傾向が示されています[6]。これはレム睡眠促進作用との関連が考えられており、特にPTSDや不安障害のある患者さんでは注意が必要です。
「依存しにくい薬に変えたら夢がひどくなった」——外来でこういった訴えを聞くようになったのは、ベルソムラが普及してから少し後のことでした。確かに依存リスクは低い。でも睡眠の質という意味では、こちらにも個人差があって、決して全員に向く薬ではない。当たり前ですが薬に「良いところだけ」はないわけです。
依存しにくい睡眠薬の使い方——飲み方の工夫で変わること
「どんな薬でも飲み続ければ慣れるし、工夫しても限界があるのでは?」そう思う方もいるかもしれません。確かに薬理的には正しい部分もある。でも、飲み方を少し変えるだけでリスクを下げられることも、また事実です。
① 毎晩ではなく「必要な夜だけ」飲む(間欠投与)
すべての夜に飲むのではなく、「本当に眠れなさそうな夜」だけ服用する方法です。連続使用より身体的依存が形成されにくいという特徴があります。「週に3回以上飲んでいたら依存のサイン」というのがひとつの目安です。
② 飲む量は最小限にする
「半錠で眠れるなら半錠で」という発想を徹底します。用量が高いほど依存・耐性のリスクは上がります。ゾルピデムなら5mg、スボレキサントなら10mgから試してみる。多ければ効くというわけでもありません。
③ 飲んだらすぐ横になる
これはゾルピデムで特に重要です。飲んでから起き上がったままでいると、例の複雑行動が起こりやすくなります。服用後はスマホを置いて、そのまま横になる。これを守るだけでリスクは相当下がります。
④ アルコールとの併用を避ける
「お酒を飲んで薬も飲めば早く眠れる」——夜の仕事をされている方から時々聞くパターンです。ただ、中枢神経抑制の相加効果で、複雑行動のリスクが倍増します。また「アルコール+薬」の組み合わせ自体が、より強い依存を形成しやすくします。
⑤ 徐々に減らす(漸減法)
やめようとするなら、決して急にやめないでください。月に10〜25%ずつ減量していく漸減法が標準的です。ひとりで試みず、必ず主治医と相談しながら進めることが大切です。
Soyka M(N Engl J Med, 2017)のレビューは、ベンゾジアゼピン依存の治療として、心理的介入を組み合わせた段階的漸減法が最もエビデンスの高いアプローチであることを示しています。急激な中断は離脱症状・痙攣発作のリスクがあり、禁忌です[7]。
「飲む前に一度聞いてみる」——それだけで変わることがあります
睡眠薬の副作用について長く書いてきましたが、誤解しないでほしいのは、「だから睡眠薬は使わないほうがいい」という話ではない、ということです。
眠れないことで翌日のパフォーマンスが下がる、感情のコントロールが難しくなる、仕事に支障が出る。その現実のつらさは十分わかっています。薬物療法がその人の生活を支える手段として有効なことも、間違いなくあります。
ただ、「どの薬を、どのタイミングで、どれくらいの量、いつまで使うか」という設計が、副作用のリスクを大きく左右します。そのことを処方される前に知っておくことが、長く自分の睡眠とうまく付き合っていくためには必要だと感じています。
20代後半の女性。夜の仕事歴3年。「眠れなくなったから」と別のクリニックでゾルピデムを処方されて以来、2年以上連日服用していた。最近は10mgでも「眠れた感じがしない」と受診。詳しく聞くと、起床後に部屋が荒れていることが何度かあり、記憶もない。複雑睡眠行動の可能性が高いと判断し、ゾルピデムを漸減しながらスボレキサントへ変更、並行して睡眠衛生指導を行った。切り替えから1ヶ月後、「夢は少し変わったけれど、朝起きたときにスッキリ感がある」と話してくれた。
当院(新宿歌舞伎町 精神科・メンタルクリニック)へのご相談について
「睡眠薬が増えてきた気がする」「やめようとしたら眠れなくなった」「今の薬で夢が多くなった」——そういったご経験がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
夜の仕事をされている方の生活リズムや状況を踏まえながら、現在の処方を見直し、依存リスクの低い薬への変更や、段階的な減薬計画を一緒に考えることができます。
何かを「やめなければいけない」という話より先に、まず今どんな状態にあるのかを整理するところから始めます。
参考文献
- Lader M. (2011). Benzodiazepines revisited—will we ever learn? Addiction, 106(12), 2086–2109. doi:10.1111/j.1360-0443.2011.03563.x
- Riemann D, Espie CA, Altena E, et al. (2023). The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023. Journal of Sleep Research, 32(6), e14035. doi:10.1111/jsr.14035
- 三島和夫(研究代表者). 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン. 日本睡眠学会, 2014年.
- Takeshima M, Yoshizawa K, Ogasawara M, et al. (2024). Association between benzodiazepine anxiolytic polypharmacy and concomitant psychotropic medications in Japan: a retrospective cross-sectional study. Frontiers in Psychiatry, 15, 1405049. doi:10.3389/fpsyt.2024.1405049
- US Food and Drug Administration (FDA). (2019). FDA adds Boxed Warning for risk of serious injuries caused by sleepwalking with certain prescription insomnia medicines. FDA Safety Communication, April 2019.
- Katsuki R, Yokomitsu T, Sugawara A, et al. (2024). Characteristics of psychiatric patients with nightmares after suvorexant administration: A retrospective study. Neuropsychopharmacology Reports, 44(4), 687–694. doi:10.1002/npr2.12472
- Soyka M. (2017). Treatment of Benzodiazepine Dependence. New England Journal of Medicine, 376(12), 1147–1157. doi:10.1056/NEJMra1611832
- Hermes GL, et al. (2023). Chronic use of benzodiazepines: the problem that persists. International Journal of Psychiatry in Medicine, 58(5), 426–432. doi:10.1177/00912174231166252
- Jain L. (2024). Reducing the risks when using benzodiazepines to treat insomnia: a public health approach. Cleveland Clinic Journal of Medicine, 91(5), 293–299. doi:10.3949/ccjm.91a.23061
- Sateia MJ, et al. (2017). Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults. Journal of Clinical Sleep Medicine, 13(2), 307–349. doi:10.5664/jcsm.6470 (米国睡眠学会ガイドライン)