クリニックからのお知らせ
尿道の違和感やおりものの異常、クラミジア陰性なのになぜ? ウレアプラズマという”グレーゾーン菌”の話
「ウレアプラズマが検出されたんですけど、治療したほうがいいでしょうか?」
この質問、最近ずいぶん増えた気がします。他院でセットで調べられた、あるいはご自身で調べて来院されるかたが多いかなと。正直に言うと、ウレアプラズマという菌は、私が学生時代に教科書で覚えた「性感染症の原因菌」の一覧にはほとんど載っていませんでした。マイコプラズマ・ジェニタリウムや淋菌、クラミジアに比べると、「本当に悪者なのか?」という議論が今も続いている、ちょっとやっかいな存在ですね。
ただ、やっかいとはいえ、困っている患者さんが目の前にいるわけです。今回はウレアプラズマについて、現時点でわかっていること・わかっていないこと、そして当院でどう考えて対応しているかをできるだけ正直に書いてみます。
ウレアプラズマとは? 菌の正体をざっくり理解する
ウレアプラズマ(Ureaplasma spp.)は、マイコプラズマ目に属する非常に小さな細菌です。特徴的なのは、細胞壁を持たないという点。この特徴は、薬を選ぶうえでかなり重要です。ペニシリン系やセファロスポリン系の抗菌薬は細胞壁を壊して菌を殺すわけですが、そもそも細胞壁がないので、それらは全く効きません。
ヒトに感染するのは主に2種類です。
- Ureaplasma urealyticum(ウレアプラズマ・ウレアリチカム)
- Ureaplasma parvum(ウレアプラズマ・パルバム)
泌尿生殖器の粘膜に好んで住み着き、性行為によって感染します。ただし、ここが難しいところなのですが、性的に活発なかたの30〜80%に普通に検出されるとも報告されており、必ずしも「検出=病気」とはなりません[1]。いわゆる「常在菌的」な振る舞いをすることもある菌で、これが診断・治療判断を難しくしています。
尿素(ウレア)を分解する酵素を持つことが名前の由来です。この酵素が粘膜を傷つけることで炎症を引き起こすのではないか、と考えられています。ただ、炎症を起こすかどうかは個人の免疫状態や菌量、他の感染との兼ね合いによって変わるようで、まだ完全には解明されていません。
症状が出るとどうなる? 尿道炎・子宮頸管炎との関係
ある日、20代後半の女性が「おりものが増えた、においが気になる」と受診されました。問診では特に心当たりのある性行為があったとのこと。クラミジア・淋菌の検査は陰性でした。細菌性膣症も否定的でした。
こういうケースで、ウレアプラズマが浮かんできます。
症状としては以下が報告されています。
- 女性:おりものの増量・性状変化、外陰部・膣の軽い違和感、不正出血
- 男性:尿道の違和感・かゆみ、軽度の尿道分泌物、排尿時の灼熱感
「でもそれ、クラミジアや他の感染の症状と変わらないですよね?」——その通りです。症状だけで区別することはほぼできません。
さらにやっかいなのは、無症状のかたにも普通に菌が存在するということです。症状があってもなくても検出されるなら、「これが原因かどうか」の判断は非常に難しい。これが現場の医者を悩ませている原因です。
ただ、エビデンスとして、U. urealyticum は非淋菌性尿道炎(NGU)の原因菌として関与している可能性が指摘されており[2]、また女性では子宮頸管炎、骨盤内炎症性疾患(PID)との関連も論じられています[3]。
「治療すべきか?」エビデンスと現場のリアルな温度差
ここが本稿で最も正直に書かなければならない部分です。
現時点では、ウレアプラズマを「性感染症の確立した起炎菌」として断定できるエビデンスは不十分です。CDCの2021年STI治療ガイドラインでも、ウレアプラズマを標的とした治療の明確な推奨は記載されていません[4]。英国のBASHHガイドラインも同様のスタンスで、「症候性患者への治療は考慮できるが、ルーティン検査は推奨しない」という慎重な立場をとっています[5]。
日本の性感染症学会のガイドラインでも、ウレアプラズマを明確な治療対象として位置づける記述は現時点では限定的です。
では、「検出されても治療しなくていい」のか?
……いえ、そう単純でもないんです。
症状があり、他の原因が除外されており、ウレアプラズマが検出された——そういうケースで、治療を試みることは臨床的に合理性があります。要は「治療的診断(therapeutic trial)」という考え方です。試験的に治療して、症状が改善するかどうかで判断する。完璧ではないですが、患者さんの困っている状況を放置することもできないんです。
医師になってから私自身も、最初はかなり迷いました。「エビデンスが不十分なら治療すべきでない」という理屈と、「目の前で困っているひとがいる」という現実の間での葛藤です。今は、丁寧に説明したうえで患者さんと一緒に判断するスタンスをとっています。
保険適用はどうなっている? 検査・治療の現実
日本の保険診療の観点では、ウレアプラズマのNAAT(核酸増幅法)検査は現時点で保険収載されていません。クラミジアや淋菌、マイコプラズマ・ジェニタリウムが条件付きで保険適用となっているのと事情が異なります。
治療に使う抗菌薬については、後述するドキシサイクリンやアジスロマイシンは保険収載薬ですが、ウレアプラズマを対象病名として使用する際の適応は厳密には保険上認められておらず、自費診療でのご提供が現実的な選択肢になります。
治療はどうする? 抗菌薬の選び方と注意点
細胞壁がないという構造的特徴から、ウレアプラズマには細胞内に作用する抗菌薬が必要です。具体的には以下の3系統が候補になります。
① テトラサイクリン系(第一選択)
最も標準的な選択はドキシサイクリンです。100mg を1日2回、7〜14日間投与することが多いです。
ドキシサイクリンはマイコプラズマ・ジェニタリウムや非淋菌性尿道炎のカバーにも有効で、複数の原因菌が重なっている可能性がある場合(これが臨床ではむしろ多い)に使い勝手がよい薬です。当院でも一番よく処方しています。
注意点は、妊娠中は使用できないこと(胎児の骨・歯への影響)。また、服用後2時間は横にならない、牛乳や制酸剤との同時服用を避けるなど、飲み方のルールがあります。
② マクロライド系
アジスロマイシン(1g 単回投与、または500mg×3日間)が選択肢に入ります。ただし、Ureaplasma spp. のマクロライド耐性が報告されており[6]、特にU. parvum では耐性菌の割合が問題になりつつあります。単回投与で効果が得られなかった場合は、ドキシサイクリンへの切り替えを検討します。
③ ニューキノロン系(第二・三選択)
レボフロキサシン、モキシフロキサシンなども効果があります。ただし、Mycoplasma genitalium との共感染が疑われる際は、マクロライド耐性を考慮してモキシフロキサシンが選ばれることがあります。ウレアプラズマ単独を狙うよりは「共感染への対応」という文脈で使うことが多いです。
なお、ペニシリン・セファロスポリン・アミノグリコシド(アミノ配糖体)は無効です。処方する意味がありません。
| 薬剤 | 用法・用量(目安) | 特記事項 |
|---|---|---|
| ドキシサイクリン(第一選択) | 100mg × 2回/日、7〜14日間 | 妊婦不可、マイコプラズマにも有効 |
| アジスロマイシン | 1g 単回 または 500mg×3日 | 耐性に注意、効果不十分時はDOXYへ |
| モキシフロキサシン | 400mg × 1回/日、7〜14日間 | M. genitalium 共感染時に考慮 |
| レボフロキサシン | 500mg × 1回/日、7日間 | 耐性報告あり、感受性確認が理想 |
マイコプラズマ・ジェニタリウムとの合併——見落とさないために
臨床でよくあるのが、ウレアプラズマとマイコプラズマ・ジェニタリウム(MG)の重複感染です。MGはウレアプラズマと同じく細胞壁のない菌ですが、こちらは疾患との因果関係がより強く確立されており、特に女性のPIDや不妊との関連が指摘されています[7]。
どちらかが陽性なら、もう一方も一緒に調べることを私は勧めています。なぜなら、薬の選択が変わってくるから。MGが共存する場合、アジスロマイシン単回投与では不十分なことが多く、マクロライド耐性検査の結果次第でモキシフロキサシンへのエスカレーションが必要になります。
パートナーも受診すべき? 感染の連鎖を断ち切るために
性感染症全般に言えることですが、ウレアプラズマも性行為を介して伝播します。片方だけ治療しても、パートナーから再感染するという「ピンポン感染」が起きる可能性があります。
ただし、前述したとおりウレアプラズマは保菌状態(無症状)が非常に多い菌です。「陽性だからあなたのせい」というわけでもなく、「陽性でも症状がないから問題ない」と言い切ることもできません。とても伝えにくい状況です。
実際のところ、私は「症状があって治療を受けるかたのパートナーには、一度検査を受けることをお勧めする」というスタンスをとっています。検査で陽性・かつ症状があれば治療を提案する。無症状なら経過観察という選択もある。そこは一律ではなく、お二人の状況に合わせて相談しながら決めています。
当院での受診の流れ——検査から治療まで
- ウレアプラズマ NAAT(尿・分泌物)
- マイコプラズマ・ジェニタリウム NAAT(同時検査推奨)
- クラミジア・淋菌 NAAT(合併除外)
- 必要に応じてトリコモナス、梅毒、HIV
新宿駅から徒歩数分、夜間の診療にも対応しておりますので、仕事帰りや夜間のご来院も歓迎しています。
まとめ——ウレアプラズマは「グレーゾーン」の菌、だからこそ丁寧な診療が必要
ウレアプラズマは、「よくある性感染症」の定番リストには載っていないものの、現場では無視できない存在です。エビデンスが不十分だからといって放置するのも、過剰に恐れるのも違います。
「陽性って言われたけど、どうすればいいかわからなかった」というかたが、この記事を読んで少し整理できたなら幸いです。
疑問や不安があれば、気軽にご相談ください。
参考文献
- Waites KB, Xiao L, Liu Y, et al. Mycoplasma pneumoniae and Ureaplasma species as respiratory pathogens. Clin Infect Dis. 2017;65(Suppl 1):S29–S42. (IF: 20.9)
- Taylor-Robinson D, Jensen JS. Mycoplasma genitalium: from Chrysalis to multicolored butterfly. Clin Microbiol Rev. 2011;24(3):498–514. (IF: 26.1)
- Oakeshott P, Hay P, Taylor-Robinson D, et al. Prevalence of Mycoplasma genitalium in early pregnancy and relationship between its presence and pregnancy outcome. BJOG. 2004;111(12):1464–1467.
- Workowski KA, Bachmann LH, Chan PA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1–187.
- Soni S, Horner P, Rayment M, et al. British Association for Sexual Health and HIV national guideline for the management of infection with Mycoplasma genitalium (2018 update). Int J STD AIDS. 2019;30(10):938–950.
- Xiao L, Glass JI, Paralanov V, et al. Detection and characterization of human Ureaplasma species and serovars by real-time PCR. J Clin Microbiol. 2010;48(8):2715–2723.
- Jensen JS, Cusini M, Gomberg M, et al. 2016 European guideline on Mycoplasma genitalium infections. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016;30(10):1650–1656.