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そのデパス、もう何年も飲んでいませんか? やめられない理由と、正しい向き合い方|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ

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「デパス、血圧の薬と一緒に内科で10年前からもらっています」

そう言って、お薬手帳を差し出された方はよくいらっしゃいます。手帳には、デパス(一般名:エチゾラム)0.5mgの処方が、ほぼ途切れることなく並んでいました。頭痛外来、整形外科、内科の不眠相談——科をまたいで出ています。

ご本人は「もう手放せない気がする」とおっしゃっていました。この感覚、実は珍しくありません。デパスは内科・整形外科・歯科など、精神科以外でも非常によく処方される薬だからこそ、「依存の話」と結びつけて考える機会がないまま、何年も服用が続いてしまうことがあるのです。

今日は、このデパスという薬の性質と、長期服用にまつわる不安、そして「やめる」という選択肢について、お話ししようと思います。


デパスがこんなに長く使われ続ける理由

デパスは1984年に発売された薬で、抗不安・筋弛緩・催眠作用をあわせ持つことから、精神科領域だけでなく、緊張型頭痛、頸肩腕症候群、腰痛症などの筋緊張を伴う症状にも保険適用があります。効果の実感が早く、肩こりや不眠にもよく効くため、内科や整形外科の現場で「困ったときの一枚」として重宝されてきた経緯があります。

ただ、この使いやすさこそが、長期処方につながりやすい落とし穴でもあります。ベンゾジアゼピン系・チエノジアゼピン系の薬剤は、本来は対症療法であり、根本原因の治療薬ではありません。しかし「よく効く」がゆえに、症状の原因を探る前に処方が継続され、気づけば数年単位の服用歴になっている、というケースがよくあります。

なぜやめにくいのか——耐性と、反跳性というブレーキ

デパスをある程度の期間、毎日服用していると、体はその薬がある状態を「通常運転」として認識するようになります。これが耐性です。同じ量では効きが弱く感じられるようになり、量が増えていく、あるいは「切らすと不安になる」という感覚が生まれてきます。

さらにデパスは、ベンゾジアゼピン系の中でも血中半減期が比較的短い薬に分類されます。作用が早く切れる分、次の一錠を飲む前の時間帯に、不安や不眠、筋緊張が「もとの症状より強く」出てしまうことがあります。これが反跳現象(リバウンド)です。患者さんはこれを「病気が悪化した」と誤解し、「やっぱりこの薬がないとダメなんだ」と、かえって薬への依存感を強めてしまうことがあります。

日本睡眠学会が公表している「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」でも、漫然とした長期処方を避け、減量・中止に際しては急激な減量ではなく段階的な漸減を行うことが推奨されています。これは精神科領域に限らず、内科的な処方であっても本来当てはまる考え方です。

「ロラゼパムやアルプラゾラムに変えれば安心」なのでしょうか

外来でよく聞かれる質問のひとつが、これです。「デパスは依存性が強いと聞いたので、他の薬に変えるはどうでしょうか?」というご相談です。お気持ちはよく分かりますし、実際にデパスは臨床用量でも依存が形成されやすい薬剤として知られていますが、「薬を変えれば依存の問題が解消する」というのは、少し単純化しすぎかもしれません。

ロラゼパムやアルプラゾラムも同じベンゾジアゼピン系薬剤であり、依存性・耐性・反跳性という基本的な性質は共通しています。臨床精神薬理領域で広く参照されている稲田健氏らのベンゾジアゼピン等価換算の考え方でも、これらは「作用の強さや半減期の違いはあるが、薬理学的な依存リスクの本質は同系統内で大きくは変わらない」薬剤として位置づけられています。つまり、「デパスをやめて、より安全な薬に変える」という発想よりも、「この系統の薬をどう減らしていくか」という視点で考えるほうが、実は本質に近いのです。

もちろん、症状の種類によっては薬剤の使い分けに意味がある場面もあります。例えば、パニック発作のような急性の強い不安には、比較的作用時間の長いロラゼパムのほうが反跳が起きにくく管理しやすい、という判断をすることもあります。ただそれは「安全な薬に乗り換える」というより、「その方の症状パターンに合わせて、離脱時の波をできるだけ小さくする」ための調整、というのが実際の臨床感覚です。

実際にやめるとしたら——外来でお伝えしていること

先ほどの患者さんには、まず「今すぐやめる必要はありません」とお伝えしました。長期服用そのものより、急な自己判断での中断のほうが、離脱症状のリスクという意味では危険だからです。

その上で行ったのは、まず今の症状を丁寧に整理し直すことでした。もともとの不眠や緊張の原因が何だったのか、今も同じ原因が続いているのか、それとも別の要因(睡眠時無呼吸、甲状腺機能、うつ状態など)が隠れていないかを見直します。そのうえで、

  • 減量は数週間から数か月単位で、少しずつ行うこと
  • 減らす過程で一時的に症状がぶり返すことがあるが、それは「病気の悪化」ではなく「離脱の過程」であること
  • 必要に応じて、依存性の少ない他系統の薬(SSRIや、睡眠については作用機序の異なる薬剤など)で土台を作りながら減らしていくことです。

しかし、これは実際には減量に至るケースが少ないの実情です。

「今さら相談していいのか」と思っている方へ

デパスを長く飲み続けている方の多くが、「こんな古い薬の話、今さら精神科で相談していいのか」とためらわれます。ですが、処方科が精神科であるか内科であるかに関わらず、ベンゾジアゼピン系薬剤の減量・中止は、専門的な知識をもって計画的に行うべき臨床課題です。自己判断での急な中断は、けいれんや強い不安発作などのリスクを伴うこともあり、お勧めできません。

もし今、お薬手帳を開いてみて、デパスや同系統の薬が何年も続いていることに気づいたなら、それは「意志が弱いから」ではなく、ごく自然な経過です。当院では、今の生活状況や症状の背景を丁寧に伺いながら、無理のない減量計画を一緒に考えています。最終的に減薬・中止は難しくても長く付き合うためのコツはお伝えできます。


参考文献

  1. 日本睡眠学会 睡眠薬の適正使用及び休薬のためのガイドライン作成ワーキンググループ「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」2013年
  2. 稲田健ほか「ベンゾジアゼピン系薬剤の等価換算に関する研究」精神科治療学
  3. Ashton H. “Guidelines for the rational use of benzodiazepines. When and what to use.” Drugs. 1994;48(1):25-40.
  4. Lader M. “Benzodiazepine harm: how can it be reduced?” Br J Clin Pharmacol. 2014;77(2):295-301.

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