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「繊細すぎてつらい」と思っていたら、実は治療できる病気だったかもしれない話――HSPと精神疾患の境界線について|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ

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窓辺で考え込む若い女性のイラスト。柔らかい光と繊細な雰囲気

ここ数年、初診の時、「HSPなんですよね…自分で言うのもなんですが繊細なところがあって」と仰る患者さんが本当に増えました。

ネット・SNSで皆さんよく耳にするHSP…今日はこれについて考えていきましょう

まずこの方の診断、精神医学的な私の見立てはなんだったのか…

詳しく聞いていくと、恋人との関係が、激しい感情の振り幅を繰り返す。相手が少し冷たくなると見捨てられる恐怖に飲み込まれ、逆に優しくされると「なぜかこのままではいられない」という不安が来る。仕事もよい時期と崩れる時期がはっきりしていて、「崩れると自分を傷つけたくなることがある」とも、話してくれました。

「繊細さ」と一言で言うには、揺れ幅が大きすぎるようです。

結局、診断は、パーソナリティ障害という結果になりました。

HSPという言葉で自分を理解しようとしていたこと、その気持ちはよくわかります。ただ、そこで止まっていたことで、本来届けられるはずのサポートに辿り着くまでに、何年もかかってしまいました。もう少し早ければよかったと、私は思いました。


HSPとはなんですか?

HSP(Highly Sensitive Person)は、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が1990年代中頃に提唱した概念です。1997年に発表された論文(Aron & Aron, 1997)[1]では、「感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity:SPS)」という特性を持つ人々として定義されました。

アーロン博士によれば、HSPの特徴は「DOES」の4要素で説明されます。

  • D(Depth of processing):物事を深く・徹底的に処理する
  • O(Overstimulation):刺激に圧倒されやすい
  • E(Emotional reactivity / Empathy):感情反応が強く、共感性が高い
  • S(Sensitivity to Subtleties):些細な変化や刺激に気づきやすい

測定には27項目の自己報告式尺度(HSPS)が用いられ、人口の15〜20%(アーロン博士自身のウェブサイトでは20〜30%)が該当するとされています。

DOESの4要素をやさしく説明したイラスト図

日本では、公認心理師・武田友紀氏の著書シリーズがベストセラーになったこともあって、SNSやテレビを通じて急速に浸透しました。いまや「HSP専門カウンセラー」という肩書きも存在するほどです。

ここが大切な前提:HSPは「医学的な診断名」ではありません

HSPの話をするうえで、最初に押さえておきたいことがあります。

HSPは、精神医学の国際診断基準であるDSM-5(米国精神医学会)にも、ICD-11(世界保健機関)にも掲載されていません。つまり、精神科や心療内科での「診断名」にはなりえない概念です。

これはHSPを否定しているわけではありません。HSPは「パーソナリティ特性」として提唱された概念であり、病気でも障害でもなく、生来の気質のひとつとして位置づけられています。「感じやすい」「繊細である」という気質そのものは、問題ではないのです。

ただ、ここに臨床的な落とし穴があります。

「HSPだから」で終わらせてしまうことの危険性

精神科の外来で「HSPだと思っていた」という患者さんを診ていると、実はうつ病だったというケースは、思いのほか少ないのです。

むしろ多いのは、パーソナリティ障害と、古い言葉を使うなら「古典的な神経症」に近い病態です。

パーソナリティ障害の場合、「繊細さ」の中身が対人関係における強烈な感受性として現れます。見捨てられることへの恐怖、関係の激しい揺れ幅、自己イメージの不安定さ――これらは「感じやすい気質」とは異なる次元の話ですが、HSPという言葉でひとまとめにされてしまうことが少なくありません。

「古典的な神経症」という表現は、DSM-5以降の精神医学では公式には使われなくなった言葉です。ただ臨床的には、いまも意味のある概念だと思っています。慢性的な不安、身体化(頭痛・胃の不快・疲れやすさ)、心理的な防衛機制が作り出す症状群――これらをHSP(繊細な気質)として解釈してしまうと、本来アクセスできるはずの治療的関わりが、ずいぶん遅れてしまいます。

もちろん、うつ病や社交不安症が背景にあるケースも存在します。ただ、私の外来の感覚では、それが「主役」でないことが多い。HSPと精神疾患の関係を論じるとき、うつ病を前面に出しすぎると、実態からずれてしまうと感じています。

温かみのある診察室で医師が患者の話を聴いているイラスト

最新の研究が示すこと――HSPと「神経症傾向」の近さ

2026年、日本精神神経学会関連の学術誌 Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports に、この問題を正面から取り上げた研究が発表されました。Matsuzawa らによる研究(2,593人を対象としたWebアンケート調査)[2]です。

この研究が検討したのは、HSPと「神経症傾向(neuroticism)」の関係です。神経症傾向とは、不安・抑うつ・感情的反応性の強さを示すパーソナリティ心理学上の特性で、古典的な神経症概念と深く重なる、確立された構成概念です。

結果として、

  • HSPが高い群・神経症傾向が高い群は、いずれもうつ症状・不安症状・ASD特性・ADHD特性・トラウマ関連ストレスが有意に高いことが示されました
  • 逆境的小児期体験(ACEs)との関連も確認され、特に心理的虐待・ネグレクトとの相関が強いという結果でした
  • 著者らは「HSPと神経症傾向はほぼ同一の構成概念ではないか」と指摘し、精神科臨床においては科学的に未確立なHSP概念よりも、確立された神経症傾向という概念を用いる方が臨床的に妥当ではないかと提言しています
  • また「DSM-5に存在しないにもかかわらず、精神疾患を抱える人がHSPという枠組みで自己理解する傾向があり、これが臨床上の懸念になっている」と明記されています

この論文の知見は、私の臨床実感ともよく一致します。「HSPだと思っていた人が、実は神経症傾向の強いパーソナリティ構造を持っていた」という見立ては、外来で日常的に経験することです。そしてその場合、「繊細な気質だから仕方ない」ではなく、パーソナリティの理解に基づいた精神療法的アプローチが有効になります。

ASDの「感覚過敏」との混同も多い

もうひとつ、臨床的に気になっていることがあります。それはHSPとASD(自閉スペクトラム症)の感覚過敏との混同です。

ASDでは、音・光・触覚・匂いなどへの感覚過敏がしばしば中核症状のひとつとして現れます。Ben-Sasson らのメタ分析(2019年)[3]では、HSP特性とASDにおける感覚過敏の重複が大きく、両者の区別が学術的にも容易ではないことが示されています。

「音が気になって職場にいられない」「蛍光灯の下にいると頭が痛くなる」「人が多いところが苦手で、外出後は何時間も疲れが取れない」――これらはHSPの特徴として語られることが多いですが、ASDの感覚過敏として理解した方が適切な場合も、少なくないのです。

「繊細さ」を否定したいわけではありません

ここまで読んで、「HSPという自己理解を否定されている」と感じた方がいるかもしれません。それは違います。

「感じやすい」「繊細である」という気質は、本物です。そしてそれは、豊かさでもあります。微細な変化に気づける、他者の感情に寄り添える、物事を深く考えられる――そういった特性が、その人の大切な一部であることは疑いようがありません。

私が伝えたいのは、「HSPという言葉の下に、専門的な関わりで変わりうる何かが隠れているかもしれない」ということです。

HSPという言葉を使うことで自分を理解しやすくなり、楽になれたなら、それはとても意義のあることです。でももし、「ずっとしんどい」「生活に支障が出ている」「人との関係が壊れていく」「HSPだとわかっても何も変わらない」と感じているなら、一度、精神科に来てみてほしいのです。

その「繊細さ」の奥に何があるかを、一緒に丁寧に見てみませんか。

扉を開けて光の中に踏み出す人物のシルエットイラスト

精神科を受診するかどうか迷っている方へ

「病院に行くほどでもないかもしれない」「HSPだから仕方ない」「精神科ってハードルが高い」――そういう気持ち、よくわかります。

ただ、こういう方には一度来てみてほしいと思っています。

  • 人間関係でいつも激しく消耗する、感情の波が大きすぎると感じている
  • 「繊細さ」のせいにしてきたが、何年経っても楽にならない
  • 慢性的な身体の不調(疲れ・頭痛・胃腸症状)が続いていて、検査では異常がない
  • 「自分が何者かわからない」「生きていく自信がない」という感覚がある
  • HSPについて知れば知るほど、「でも何かが違う」と感じる

当院(シティライトクリニック 心とからだ)では、「自分がどういう状態なのかわからない」「HSPなのか病気なのかわからない」という方の初診も、落ち着いた環境でお受けしています。診察では、あなたの「繊細さ」を否定することなく、その背景にあるものを一緒に丁寧に整理させていただきます。

HSPかどうかより、あなた自身が少し楽になれるかどうかの方が、ずっと大切なことだと思っています。


参考文献

  1. Aron EN, Aron A. Sensory-processing sensitivity and its relation to introversion and emotionality. J Pers Soc Psychol. 1997;73(2):345-368.
  2. Matsuzawa A, Sasaki T, Shimizu E, et al. Relationships among highly sensitive personality (HSP), neuroticism, mental health, neurodevelopmental traits, and adverse childhood experiences (ACEs). Psychiatry Clin Neurosci Rep. 2026;5:e70322. https://doi.org/10.1002/pcn5.70322
  3. Ben-Sasson A, Gal E, Fluss R, et al. Update of a meta-analysis of sensory symptoms in ASD: a new decade of research. J Autism Dev Disord. 2019;49(12):4974-4996.

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