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なんか元気がない、食欲がない…それ本当にメンタルの病気?身体の病気が「うつ」に見えることがある|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ
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「最近、なんか元気がでない」「食欲がない、気力がわかない」——そう感じてインターネットで検索すると、「うつ病チェックリスト」がずらりと並びます。確かに、それはうつ病のサインかもしれません。でも、精神科医として日々の外来で感じることのひとつは、「精神症状だと思っていたら、実は身体の病気だった」というケースが、決して珍しくないということです。
今日は、身体の病気が「メンタルの不調」に見える理由と、精神科医がどのように鑑別を行っているかについてお話しします。
「うつかもしれない」と受診した患者さんから、身体の病気が見つかることがある
問診票(当院ではアプリです)を眺めながら、ふと引っかかることがあります。気力がない、食欲がない、朝がつらい、涙もろい——並んでいる項目だけを見れば、教科書通りのうつ病です。ただ、症状の”質”がどこか噛み合わない。そう感じることが、時々あります。
時折遭遇するケースとして中高年の女性の3か月ほど前から続く倦怠感と気分の落ち込みがあります。血液検査を取ると、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値が明らかに高いことがわかりました。甲状腺機能の低下です。内分泌科に紹介し、ホルモン補充療法を始めたところ、数か月後には「別人みたいに元気になった」とご報告いただきました。
こういったケースは、精神科外来では珍しいことではありません。精神科医は問診の際に必ず身体的な原因を除外する——これを「鑑別診断」と呼びますが、これは精神医学の基本中の基本です。
精神症状に見えやすい身体疾患——代表的な7つ
① 甲状腺機能の異常——「うつ」にも「パニック」にも見える
甲状腺は首の前にある小さな器官ですが、全身の代謝を調節するホルモンを分泌しています。その機能が乱れると、精神症状が現れやすくなります。
- 甲状腺機能低下症(橋本病など):倦怠感・気力低下・抑うつ・記憶力低下・体重増加などが現れ、うつ病とほぼ区別がつかないことがあります。日本内分泌学会も、うつ症状が続く場合には甲状腺機能の検査が重要であることを指摘しています(参考1)。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):動悸・不安・イライラ・不眠・手の震えが現れ、パニック障害や全般性不安障害と見分けがつかないことがあります。
いずれも、血液検査(TSH・FT4)で比較的簡単に確認できます。精神科初診時に検査をご案内することもあります。
② 貧血(特に鉄欠乏性貧血)——女性に多く、見過ごされやすい
「ずっとなんとなくしんどい」という女性の患者さんで、血液検査をしてみると鉄欠乏性貧血だった、というケースが時々あります。鉄欠乏性貧血では、倦怠感・集中力の低下・気分の落ち込み・頭痛などが現れます。特に月経のある女性は慢性的に鉄が失われやすく、フェリチン(貯蔵鉄)の低下は、血色素(Hb)値が正常範囲内でも倦怠感の原因になり得ることが示されています(参考2)。
「血液検査は正常と言われた」という方でも、フェリチン値までチェックしているケースは少ないため、見落とされやすいポイントです。
③ 更年期障害——女性だけでなく、男性にも
40〜55歳前後の女性では、エストロゲンの急激な低下によってほてり・発汗・不眠・抑うつ・不安・イライラなどが現れます。これらはうつ病・不安障害の症状と非常によく重なります。
あまり知られていませんが、男性にも「男性更年期(LOH症候群:加齢男性性腺機能低下症候群)」があります。テストステロンの緩やかな低下により、気力低下・抑うつ・集中力の低下などが現れますが、「歳のせいかな」「仕事の疲れかな」と見過ごされがちです。ホルモン値の測定(テストステロン・FSHなど)で確認できます。
④ 悪性腫瘍——がんの前触れとして精神症状が出ることがある
少し怖い話になりますが、知っておいていただきたいことがあります。膵がんでは、診断が確定する前の1年以内に、抑うつや不安の症状が現れることが約50%の患者さんで報告されています(参考3)。がんが産生する炎症性サイトカインや、腫瘍随伴症候群(パラネオプラスティック症候群)が脳の機能に影響を与えると考えられており、肺がんでも同様の報告があります。
もちろん、うつ症状のある方全員にがんを疑う必要はありません。ただ、急激な体重減少・発熱・夜間の寝汗・特定部位の持続する痛みなどを伴うときには、身体的な精査が優先されます。このような「要注意サイン(red flags)」を見逃さないことが、精神科外来でも大切です。
⑤ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)——十分眠っているはずなのに、日中眠い
「毎日7〜8時間寝ているのに、日中ものすごく眠い」「集中できない、気力がわかない」という症状で来院される方のなかに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の方がいらっしゃいます。SASでは、睡眠中に何度も呼吸が止まることで睡眠の質が著しく低下し、日中の強い眠気・集中力低下・抑うつ気分が現れることが知られており、うつ病の併存率が高いことも報告されています(参考4)。いびきがある方、首が太めの方、肥満傾向の方は特に注意が必要です。
⑥ 糖尿病・血糖の乱れ
血糖値の乱高下は、気分の波・倦怠感・集中力低下を引き起こすことがあります。特に低血糖のエピソードは、突然の不安・動悸・ふるえ・冷や汗・集中力の低下として現れ、パニック発作や精神症状と誤認されることがあります。血糖値・HbA1cの測定で確認できます。
⑦ 副腎疾患(稀だが、見逃せない)
副腎機能が低下するアジソン病では、強い倦怠感・食欲不振・抑うつが現れます。また、副腎皮質ホルモンが過剰になるクッシング症候群では、気分の波・不安・抑うつが見られます。頻度は低いですが、見落とされやすい重要な鑑別疾患のひとつです。
「心身症」と「身体症状症」——身体と心の複雑な関係
ここで、混乱しやすい二つの概念を整理しておきます。
心身症とは、身体の病気(例:過敏性腸症候群、緊張型頭痛、アトピー性皮膚炎の悪化など)のうち、心理的・社会的なストレスが発症や悪化に大きく関与しているものを指します。検査をすれば身体的な異常は見つかります。「精神と身体は分離していない」という考え方を基盤にしており、身体の治療と並行してストレス管理や心理的サポートが有効です。
一方、身体症状症(旧称:身体表現性障害)は、検査をしても明らかな身体的異常が見つからないにもかかわらず、痛み・だるさ・めまい・しびれなどが持続する状態です。DSM-5(精神疾患の診断基準)では「身体症状症(Somatic Symptom Disorder)」として整理されており(参考5)、脳や神経系の感覚処理の問題として理解されています。
「検査で何も出ない=気のせい」ではありません。症状そのものは本物であり、精神科的なアプローチ(認知行動療法・薬物療法など)が有効な場合があります。「どこに行っても異常なしと言われたけれど、体が辛い」という方も、ぜひご相談ください。
精神科医は、どうやって身体疾患を見分けるのか
「精神科は気持ちしか診ない」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には問診の段階から身体的な原因のチェックが始まっています。
- 問診:いつから・どのように症状が始まったか、体重の変化、食欲・睡眠の変化、使用中の薬(市販薬・漢方含む)、月経周期や更年期症状の有無、家族歴など
- 身体症状の確認:ほてり・動悸・発汗・特定部位の持続する痛み・しびれなど、精神症状と並走する身体症状がないか
- 必要に応じた検査案内・他科紹介:血液検査(甲状腺機能・貧血・血糖・肝機能など)や簡易型睡眠検査のご案内、内科・婦人科・耳鼻科など適切な診療科へのご紹介
身体疾患が見つかった場合は、その治療を優先します。逆に、「身体的な原因は否定された」という確認が取れてから、精神科的な治療を本格的に進めることができます。これが鑑別診断の意義です。
おわりに——「気のせいかも」でも、まず受診を
「元気がない、でも気のせいかもしれない」「精神科に行くほどでもないかも」——そう思って受診を迷っている方がいらっしゃると思います。でも、精神症状の背後には、採血ひとつで見つかる身体の問題が隠れていることがあります。
当院では初診時に丁寧な問診を行い、必要と判断した場合には身体疾患の精査をご案内しています。「うつかもしれない」「なんとなく調子が悪い」という段階から、遠慮なくご相談ください。
シティライトクリニック 心とからだ(新宿)では、精神科・心療内科の観点から、心と身体の両面を丁寧に診察しています。
参考文献
- 日本内分泌学会「甲状腺機能低下症」患者向け情報(j-endo.jp)
- Verdon F, et al. “Iron supplementation for unexplained fatigue in non-anaemic women: randomised double blind placebo controlled trial.” BMJ. 2003;326(7399):1124.
- Fras I, Litin EM, Pearson JS. “Comparison of psychiatric symptoms in carcinoma of the pancreas with those in some other intraabdominal neoplasms.” Am J Psychiatry. 1967;123(12):1553–1562. / Holland JC et al. “Psychosocial factors in the assessment and treatment of patients with cancer.” Cancer. 1986.
- 日本睡眠学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン2020」
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition Text Revision (DSM-5-TR). 2022.
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