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やる気が出る薬って、本当にあるの?精神科医が正直に解説します|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ

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正直に言うと、この質問に答えるのは毎回少し悩みます。

「やる気が出る薬って、ありますか?」

否定すれば嘘になる。肯定すれば、必要以上の期待を持たせてしまうかもしれない——そういう問いです。適応障害で休職中の方、何年もどこかどんよりした感覚を抱えている気分変調症の方から、外来でよく聞かれます。「薬でどうにかならないか」という気持ちは、とても自然だと思います。

今回は精神科医として、「あるといえばある、でも魔法ではない」という話を、書いてみようと思います。歴史的な薬の話も少し挟みますが、それが意外とおもしろいんです。

やる気が出ない朝のイメージイラスト

やる気はなぜ消えるのか――脳の中のドーパミンの話

「意欲」や「動機づけ」に深く関わるのが、脳内のドーパミンという神経伝達物質です。中脳から大脳辺縁系(いわゆる「報酬系」)に向けて放出され、「やった!」「楽しい!」という感覚と密接につながっています。

うつ状態や気分変調症では、このドーパミンの働きが低下しやすいと考えられています。好きなことが楽しくなくなる「アンヘドニア(快感消失)」も、ドーパミン系の不具合が一因とされています。

薬で意欲を改善するアプローチは、大まかに言えば「このドーパミンの働きを補助する」ことになります。ただし脳の中の話はそう単純ではなく、セロトニンやノルアドレナリンなど他の物質とも複雑に絡み合っています。「ドーパミンだけ増やせばOK」という単純な話ではないことは、最初に伝えておきます。

今も現役で使われる薬たち

スルピリド(商品名:ドグマチール)――もっとも身近な「意欲の薬」

精神科外来で意欲低下に使う薬として、最もなじみ深いもののひとつがスルピリド(ドグマチール)です。

この薬の面白いところは、用量によって効果がほぼ逆転することです。少量(おおむね150mg以下)では、ドーパミンの「出過ぎを防ぐブレーキ(シナプス前自己受容体)」だけを選択的に抑えることで、逆にドーパミンの分泌が増えます。結果として、意欲が上がり、気分が明るくなりやすい。ところが多量(600mg以上)になると、今度はドーパミン受容体全体を広くブロックするため、統合失調症の幻覚・妄想に対する抗精神病薬として機能します。「同じ薬なのに、量で別物になる」という、薬理学的に非常に珍しいキャラクターを持っています。

もともとはフランスで開発された胃腸薬でした。「患者さんがなんとなく元気になった」という副作用の観察から、精神科的な効果に注目が集まったとされています——後で紹介するMAO阻害薬の発見秘話と似た構図です。

適応はうつ病・うつ状態、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、統合失調症(高用量時)。保険適応があり、安価で、胃の症状も一緒に改善できるというメリットもあります。

ただし、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)を上げる副作用があり、女性では月経不順や乳汁分泌、男性でも女性化乳房が起きることがあります。長期・高用量では体のこわばり(錐体外路症状)にも注意が必要です。

適応障害の方でも「うつ状態が主体」と判断されれば、スルピリドを少量から試すことはあります。ある時期に担当していた30代の女性の方は、休職中に「薬でどうにかならないか」という言葉でやってきました。眠れてはいる、でも朝がどうしても重い、以前好きだったことが楽しくない——そういう状態でした。スルピリドを少量から始めて2週間ほどで、「なんか、食欲が出てきました」という報告がありました。小さな変化ですが、その「少し動ける」という感覚が、次の一歩につながりやすい。そういう印象を持っています。

精神科で使われる薬のイメージイラスト

SSRI・SNRI――「気分が整えば、自然と動けるようになる」

「やる気が出る薬」とは少し違う文脈ですが、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)も、意欲の改善に関わる薬です。

SSRIの代表はフルボキサミン(デプロメール)、パロキセチン(パキシル)、エスシタロプラム(レクサプロ)など。SNRIではデュロキセチン(サインバルタ)やベンラファキシン(イフェクサー)が代表的です。

SNRIはノルアドレナリンにも作用するぶん、意欲・気力への効果がSSRIよりも実感されやすいという印象を持つ医師は多いです(あくまで臨床的な印象であり、比較エビデンスは限定的です)。効果が出るまで2〜4週間かかるため、「すぐに動けるようになりたい」という気持ちとのギャップが生まれやすい薬でもあります。

適応障害に対するSSRIの有効性を示すエビデンスは現時点では強固ではありませんが、「うつ状態が続いている」と判断されれば、診断の枠組みを含めて処方の対象になります。

アリピプラゾール(エビリファイ)少量――ドーパミンの「調整役」

統合失調症や双極性障害の薬として知られますが、少量のアリピプラゾールは抗うつ薬との「増強療法」として、うつ病の意欲改善に使われます。ドーパミン部分作動薬という独特の作用機序で、ドーパミンが足りない時には補い、多すぎる時には抑えるという、バランサーのような働きをします。

意欲改善目的での単独少量処方は適応外になる場合もあり、使い方の判断は医師によって異なります。

「あの薬をください」と言われる薬の話

医師と患者が相談しているイラスト

コンサータ(メチルフェニデート)――「集中力が上がると聞いた」

外来では時々「コンサータをください」と言って来院される方がいます。「集中力が上がる薬だと聞いた」「仕事のパフォーマンスが落ちていて……」——その気持ちはわかります。

コンサータはADHD(注意欠如・多動症)の治療薬で、ドーパミンとノルアドレナリンの再取込みを阻害することで集中力や衝動抑制を助けます。ADHDの診断がある方には確かに劇的に効く薬です。

しかし、ADHDの正式な診断がない方への処方は適応外となります。コンサータは依存・乱用リスクがあることから、処方できる医師・薬局が登録制で厳格に管理されており、「ちょっと集中したいから」という理由での処方はできません。

「ADHDかもしれない」と思う方は、きちんと評価を受けることをおすすめします。ただ、コンサータを目当てに「ADHDだと思います」と受診するケースは以前から問題になっており、医師は慎重に見ています。

モダフィニル(プロビジル)――「スマートドラッグ」は万能ではない

ナルコレプシー(突然眠り込んでしまう病気)の治療薬ですが、「スマートドラッグ」として海外で話題になることがある薬です。眠気を取り除く作用は確かにありますが、「意欲が出る」「やる気スイッチが入る」というイメージは過剰な期待です。ナルコレプシーの診断がない方への処方は適応外です。

かつては処方されていたが、今は使いにくくなった薬

ベタナミン(ペモリン)――まだ存在するが、ほとんど選ばれない

ペモリン(商品名ベタナミン)は、弱いアンフェタミン様作用を持つ中枢神経刺激薬です。かつてはナルコレプシーや軽症うつ病・抑うつ神経症の意欲改善に処方されていました。日本では三和化学研究所が今も製造・販売しており、10mg錠は軽症うつ病・抑うつ神経症の適応を持っています(保険適応あり)。

ただし、アメリカでは重篤な肝毒性(劇症肝炎による死亡例)が相次いだため2005年に販売中止となっており、日本でも同様のリスクへの懸念から、処方される機会は大幅に減っています。「まだ使えます」とは言えますが、「積極的に選ぶ理由がない」という状況です。

リタリン(メチルフェニデート速放錠)

コンサータの前身ともいえる薬です。かつては「うつ病の意欲改善」にも使われていましたが、依存・乱用問題が深刻化し、規制が大幅に強化されました。現在の日本での適応はナルコレプシーのみです(ADHDにはコンサータが使われます)。

薬の歴史を少し――意外な発見のエピソード

1950年代の薬の発見を表すレトロなイラスト

ヒロポン――「やる気の薬」の最も壮絶な失敗例

少し歴史の話を。現代の薬を語る前に、最大級の反面教師を紹介しないわけにはいきません。

メタンフェタミン、商品名「ヒロポン」は、1941年から日本で市販薬として販売されていました。「疲労回復」「仕事の能率向上」をうたい、戦時中は軍需工場の労働者や兵士に広く用いられました。戦後も一般市場に出回り続け、手軽に手に入る薬として一時期広く普及しました。

結末は言うまでもありません。中毒者が激増し、「廃人製造薬」とも呼ばれるほど社会問題化。1951年に覚醒剤取締法が制定され、厳しく規制されました。

「やる気が出る薬」の究極形は、最終的にこういう結果になりました。これはある意味、「意欲を薬だけで解決しようとすること」への強烈な警告だと私は受け止めています。

MAO阻害薬――「踊りだした結核患者」から生まれた抗うつ薬

現代の抗うつ薬の歴史は、1950年代の偶然の発見から始まります。

結核の治療薬として開発されたイプロニアジドを投与された患者に、不思議なことが起きました。結核の症状とは別に、気分が高揚し、活動的になる患者が現れたのです。病棟内を陽気に歩き回る患者の様子に、医師たちは最初当惑したと言われています。

これに目をつけた研究者が調べてみると、イプロニアジドがMAO(モノアミン酸化酵素)という酵素を阻害し、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の分解を抑えることで、脳内に神経伝達物質が増えていたことが判明しました。1957年に論文として発表され、1958年には世界最初の抗うつ薬のひとつとして市販されます。

……が、その後、重篤な肝臓障害・腎臓障害が次々と報告され、市販からわずか3年足らずで撤退。「結核薬→意図しない気分高揚→抗うつ薬として市販→副作用で撤退」という、ドラマチックな歴史を持つ薬です。現在のMAO阻害薬(フェネルジン等)は、食事中のチラミンとの相互作用(チーズや赤ワインで高血圧発作が起きうる)から日本ではほとんど使用されていません。

三環系抗うつ薬(イミプラミン等)

MAO阻害薬と同時期の1950年代、抗精神病薬クロルプロマジンの類縁体として開発されたイミプラミンも、「うつには効かないはずが、実は非常に有効だった」という偶然の発見によって抗うつ薬の歴史に名を刻みました。三環系抗うつ薬として長く使われてきましたが、口渇・便秘・起立性低血圧・過量服薬時の致死リスクなどから、現在は使用機会が大幅に減っています。

海外では使われているが日本では未承認の薬

ブプロピオン(Wellbutrin)は、アメリカでは主要な抗うつ薬のひとつで、ドーパミン・ノルアドレナリン再取込み阻害(NDRI)という機序で意欲改善効果が高いと評価されています。性機能障害が起きにくいという特徴もあり、米国では広く処方されています。しかし日本では抗うつ薬としての承認がなく、個人輸入で求める患者さんもいますが、医師の管理外での使用はリスクが高く、おすすめできません。

薬は「やる気」を作れるのか

ここまで色々な薬を紹介してきて、ひょっとしたら「意外と選択肢があるじゃないか」と感じた方もいるかもしれません。少し補足しておきます。

これらの薬が効果を発揮するのは、基本的に「脳の神経伝達物質系の機能が何らかの形で低下している状態」のときです。うつ病や気分変調症では、薬が「欠けているピース」を補うように働くことがあります。

しかし、病気でも何でもない状態から「やる気スイッチを入れる」ために薬を使うことは、ヒロポンの歴史が示すように危険な方向に向かいやすい。「もっと欲しい」という渇望が生まれ、薬に頼るほど本来の意欲が出にくくなる悪循環にはまります。

そして薬だけでは、「なぜ意欲が落ちているのか」という根本には触れられません。環境が変わらなければ、また落ちます。薬は「少し動けるようになる」ための補助輪であって、動き始めるきっかけを作るものです。

少し前に踏み出すイメージイラスト

まとめ――「やる気が出る薬をください」は、主治医に言える言葉です

「やる気が出る薬をください」という言葉の裏には、それだけの疲弊や苦しさが必ずあります。そのことを、精神科医として忘れないようにしたいと思っています。

薬に何ができて、何ができないか。どんな診断でどの薬が適応になるか。副作用リスクは許容できるか。——これらを一緒に考えるのが、主治医との関係です。インターネットで調べて「この薬を処方してほしい」と来られる方も増えていますが、薬を選ぶのは診断の後です。まず今の状態を正確に把握し、そのうえで何が役に立つかを考える。

「やる気を出す薬はありますか?」——その質問ごと、ぜひ主治医に持っていってみてください。

当院(シティライトクリニック 心とからだ・新宿)でも、初診の段階から、意欲低下の背景と薬の選択肢について丁寧にご相談しています。

シティライトクリニック 心とからだ|新宿 西武新宿駅徒歩1分

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