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「PTSDの薬、何を飲めばいいの?」精神科医が薬物療法と治療の全体像を正直に解説|新宿 心療内科 シティライトクリニック 心とからだ

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前回、「PTSDって何?」というテーマで、診断基準についてお話ししました。「つらい出来事にあった=PTSD」ではなく、いくつかの症状がそろって初めて診断される、という内容でした。

今回は、その続きです。実際にPTSDと診断された方、あるいは診断されるかもしれないと感じている方から、いちばんよく聞かれる質問はなんでしょうか? それはずばり、「薬は、何を飲めばいいんですか」というものです。この問いを入り口に、薬物療法の中身と、それだけでは足りない治療の全体像について、お話ししようと思います。

精神科の診察室で医師が処方について考えているイラスト

PTSDの薬物療法——中心になるのはSSRI

PTSDの薬物療法で中心的な役割を担うのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。国内外のガイドラインで第一選択とされているのは、セルトラリンパロキセチン。この2剤は日本でも「外傷後ストレス障害」への効能・効果を正式に取得しており、PTSDに対して保険診療の範囲で処方できるお薬です。

海外のガイドラインでは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)のベンラファキシンも第一選択のひとつに挙げられています[1]。ただ、正直にお伝えしておくと、この薬は日本の厚生労働省の承認を得ていません。海外の教科書やガイドラインを読むと必ず名前が挙がる薬なのですが、「日本で普通に処方できる薬」ではない、というのが実情です。

SSRIは、飲んですぐに効くタイプの薬ではありません。効果を実感できるまでに数週間かかることが多く、副作用の出方にも個人差があります。少ない量から始めて、様子を見ながら調整していきます。焦らないことが大切だと感じています。

それでも症状が強いとき——リスペリドン・クエチアピンの位置づけ

SSRIを続けても症状が十分に落ち着かない場合、リスペリドンやクエチアピンといった抗精神病薬が話題にのぼることがあります。ただ、ここは誤解が生まれやすいところなので、少し丁寧に説明させてください。

リスペリドンについては、退役軍人296人を対象とした大規模な二重盲検試験で、SSRI等の治療に上乗せしても、全体としてはプラセボ(偽薬)と比べて有意な差が出なかったという結果が報告されています[2]。「効かない薬」と言い切るのは乱暴ですが、少なくとも「誰にでも上乗せすれば効く薬」ではない、というのが現時点でのエビデンスです。幻覚や妄想的な体験を伴うようなケースなど、限られた状況で検討されることはあります。

一方でクエチアピンは、単剤での有効性を示したランダム化比較試験があり、PTSDの中核症状に加えて、併存する抑うつ・不安症状にも効果が示されています[3]。ただしクエチアピンには、体重増加や血糖値・脂質への影響といった代謝面のリスクがあり、長期に使うほど注意が必要になる薬でもあります。

結局のところ、これらの薬は「主役」ではなく、あくまで個々の状態に応じて検討する「選択肢のひとつ」です。ひょっとしたら、名前だけを聞いて「強い薬」というイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際にはメリットとリスクを天秤にかけながら、一人ひとり違う判断をしています。

PTSD治療の3本柱(薬物療法・心理教育・トラウマ焦点化療法)を示す図解イラスト

眠れない、悪夢を見る——レム睡眠にまつわる症状への対応

PTSDの方からよく聞くのが、「悪夢を繰り返し見る」「夜中に何度も目が覚める」という訴えです。これは、レム睡眠中のノルアドレナリン系の働きが過剰になっていることと関係していると考えられています。本来レム睡眠は、感情の高ぶりを抑えながら夢を見られるように調整されているのですが、PTSDではこの調整がうまく働かず、悪夢という形で表に出てくる、という感じです。

この悪夢に対しては、海外では α1遮断薬であるプラゾシンが注目され、小規模な試験ではよい結果も出ていました。ところが、退役軍人を対象としたより大規模な研究(New England Journal of Medicine誌に掲載)では、プラゾシンはプラセボと比べて悪夢や睡眠の質を明確に改善しなかったという結果が示されています[4]。期待されていた薬だっただけに、この結果には私自身、少し意外でした。

日本では、こうした薬は睡眠薬としての正式な承認を得た使い方ではなく、実際には個々の状態を見ながら、他の睡眠に関わる薬を含めて手探りで対応することが多いのが実情です。「悪夢に効く決定版の薬」と呼べるものが、今のところないのです。だからこそ、薬だけに頼らず、次にお話しする心理教育や生活面での対応もあわせて考えていく必要があります。

薬だけでは終わらない——心理教育という土台

ここまで薬の話をしてきましたが、PTSDの治療は薬だけで完結するものではありません。むしろ土台になるのは「心理教育」だと、私は考えています。心理教育というと堅苦しく聞こえるかもしれませんが、実際にやっていることは、わかりやすいものです。

  • 「今出ている症状は、異常な出来事に対する“正常な”反応である」とお伝えすること。症状そのものを「自分がおかしいからだ」と責めてしまう方が本当に多いのです
  • フラッシュバックや悪夢が、なぜ起こるのか——記憶がうまく処理されずに残っている、という仕組みを、専門用語を使わずに説明すること
  • 症状が強く出やすい状況(トリガー)を、一緒に振り返って整理すること
  • 睡眠や食事、生活リズムを整えることが、症状の波を小さくすることにつながると伝えること
  • ご家族や周囲の方に、PTSDについてどう説明すればよいか、一緒に言葉を考えること

これらは地味な作業に見えるかもしれませんが、「自分の状態に名前と理由がついた」というだけで、ずいぶん楽になる方がいます。薬を飲む前に、まずここから始まると言ってもいいくらいです。

外来でできること——トラウマそのものに向き合う治療

トラウマの記憶そのものに焦点を当てて処理していく治療法として、持続エクスポージャー療法・EMDR・トラウマ焦点化認知行動療法(認知処理療法など)といった手法があります。これらは世界保健機関(WHO)のガイドラインでも、PTSDに対する心理療法として推奨されている専門的な技法です[5]。本格的なプログラムとして行う場合は、専門の研修を受けたセラピストのもとで、決まった手順に沿って進めていくのが基本です。

ただ、外来の限られた診察時間の中でも、その考え方を借りた工夫はできると感じています。たとえば私自身、診察の中で、フラッシュバックが強く出そうな話題に入る前に、まず「今、ここ」に意識を戻すグラウンディングの練習——足の裏が床についている感覚や、手のひらの感触に注意を向けてもらう、といった簡単な方法を一緒にやってみることがあります。呼吸を意識的にゆっくりさせる練習も、よく使います。

そのうえで、トラウマの記憶に触れるときも、いきなり核心から話してもらうのではなく、本人が「これなら話せる」と感じられる範囲から、少しずつ、様子を見ながら進めるようにしています。ある日、患者さんが「今日はここまでにしておきます」と自分から区切ってくれたことがありました。無理に聞き出そうとせず、本人がペースを決められることの大切さを、あらためて感じた出来事でした。

医師が患者にグラウンディングや呼吸法を説明しているイラスト

ただし、トラウマに触れることには危険もある

ここまで前向きな話をしてきましたが、大事な注意点をひとつお伝えしておきたいと思います。トラウマの記憶に、準備なく・安易に触れることには、危険があります。フラッシュバックが強く誘発されたり、解離的な状態になったり、症状が一時的にかえって悪化したりすることがあります。最悪の場合、「再受傷(リトラウマ化)」と呼ばれる、傷つき直すような体験になってしまうこともあるのです。

だからこそ、トラウマ焦点化療法は、いきなり出来事の核心に踏み込むのではなく、まず安全を確保し、症状をある程度安定させる段階を経てから進めるのが原則です。専門家が段階を踏んで伴走するのは、この危険性があるからこそです。

近年は、動画や書籍で心理療法の手法そのものを知ることができるようになりました。それ自体はよいことだと思う一方で、自己流でトラウマの記憶に深く踏み込もうとするのは、正直、おすすめできません。安定化のステップを飛ばしてしまうと、かえって状態を崩してしまうことがあるからです。

まとめ——薬・心理教育・トラウマへの向き合い方は、三位一体

今回お伝えしたかったのは、PTSDの治療は「薬物療法」「心理教育」「トラウマ焦点化療法」のどれか一つで完結するものではなく、組み合わせながら、段階を踏んで進めていくものだということです。薬は症状の波を小さくする土台になり、心理教育は自分の状態を理解する助けになり、トラウマ焦点化療法は根本にある記憶そのものに働きかけていく——それぞれ役割が違うのです。

前回の「PTSDって何?」の回とあわせて、治療の全体像が少しでもイメージしやすくなっていれば嬉しいです。

当院(シティライトクリニック 心とからだ・新宿)では、薬物療法だけでなく、心理教育やトラウマへの向き合い方についても、一人ひとりのペースに合わせてご相談に応じています。「薬を飲むのが怖い」「トラウマの話をするのが怖い」——そうした不安も含めて、どうぞお気軽にお話しください。


参考文献

  1. 一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会.PTSDの薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために.第1版.2013年9月6日.
  2. Krystal JH, Rosenheck RA, Cramer JA, et al. Adjunctive risperidone treatment for antidepressant-resistant symptoms of chronic military service-related PTSD: a randomized trial. JAMA. 2011;306(5):493-502. https://doi.org/10.1001/jama.2011.1080
  3. Villarreal G, et al. Efficacy of Quetiapine Monotherapy in Posttraumatic Stress Disorder: A Randomized, Placebo-Controlled Trial. Am J Psychiatry. 2016;173(12):1205-1212. https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2016.15070967
  4. Raskind MA, Peskind ER, Chow B, et al. Trial of Prazosin for Post-Traumatic Stress Disorder in Military Veterans. N Engl J Med. 2018;378(6):507-517. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1507598
  5. World Health Organization. Guidelines for the Management of Conditions Specifically Related to Stress. Geneva: WHO; 2013.

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