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「雨の日になると気分が沈む」のはなぜ?季節性のうつと天気による不調、その違いと治し方|新宿 心療内科 シティライトメンタルクリニック

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「雨の日は気分が沈むのも仕方ない」という言葉を、診察室で何度も耳にします。天気が悪いと気分が下がるのは、多くの人にとってごく当たり前の感覚なので、わざわざ相談するほどのことではないと思われがちです。ですが実際に話を聞いていくと、この一言の中に、性質のまったく異なる二つの話が混ざっていることに気づかされます。ひとつは季節の巡りとともに繰り返す、診断のつきうる「うつ」。もうひとつは、その日その日の天気に左右される、診断名のない一時的な不調です。この記事では、この二つを切り分けながら、それぞれにどう向き合えばよいかをお伝えします。

曇り空の窓の外を物憂げに見つめる人のイラスト

「季節性のうつ」は、実は診断のつく状態です

まず、季節に伴って繰り返す気分の落ち込みの話からしましょう。「季節性感情障害(SAD)」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思いますが、実はこれは独立した病名ではありません。現在の診断基準(DSM-5)では、うつ病や双極性障害という診断名に付け加えられる「季節型」という特定用語として位置づけられています。つまり、秋から冬にかけて気分の落ち込みが繰り返し出現し、春になると軽快するというパターンが、少なくとも過去2年にわたって季節以外の時期のエピソードを上回るかたちで確認されたとき、はじめて「季節型のうつ病」という診断が検討される、という仕組みです。

数年前から、秋が深まるたびに同じような不調を繰り返していた方がいらっしゃいました。仕事の能率が落ち、朝はいくら寝ても起きられない。ご本人は「単に飽きっぽい性格のせいだ」「毎年サボり癖が出るだけだ」と自分を責めていましたが、症状が出るタイミングと軽快するタイミングを一緒に振り返ってみると、見事に秋〜冬に一致していました。性格の問題ではなく、季節型のうつという診断がつきうる状態だったのです。ここまで整理できると、多くの方はほっとした表情を見せます。「自分の意志が弱いわけではなかった」と分かるだけでも、気持ちの負担はずいぶん軽くなるようです。

なぜ緯度が高いと調子を崩しやすいのか

この季節型のうつには、緯度との関連が古くから指摘されています。米国東海岸の複数地域で行われた調査では、より北に位置する地域ほど、冬季の季節性うつ・準季節性うつの有病率が明らかに高いことが示されています(Rosen et al., 1990)。日照時間が短い土地ほど、この状態を経験する人が増えるという傾向は、その後の研究でも繰り返し確認されてきました。

メカニズムとして考えられているのは、日照時間の短縮が体内時計(概日リズム)を乱し、気分の調整に深く関わるセロトニンや、睡眠・覚醒のリズムを司るメラトニンの分泌バランスに影響を及ぼすという仮説です。冬になると日照時間そのものが短くなるだけでなく、通勤・通学の時間帯には空がまだ暗い、という方も多いでしょう。光を浴びる機会が生活の中で自然と減ってしまうことが、体のリズムに静かに影響を与えているのかもしれません。

「雨の日に気分が落ち込む」に、診断名はつくのか

ここで、多くの方が本当に聞きたいであろう問いに戻ります。「雨の日」「低気圧の日」に気分が落ち込むという、季節ではなくその日ごとの変動については、診断名がつくのでしょうか。正直にお答えすると、現時点では、いわゆる「気象病」「天気痛」という言葉に対応する正式な医学的診断名は存在しません。天気の変化がきっかけとなって様々な不調が引き起こされる状態を指す通称であり、独立した疾患単位として確立されているわけではないのです。

ただ、診断名がないことと、「気のせい」であることは、まったく別の話です。気圧の変化が自律神経系を介して体に影響を及ぼすメカニズムについては、動物実験レベルでの検討が進んでいます。神経障害性疼痛モデルのラットを用いた実験では、気圧を人為的に下げると痛みに関連する行動が増強し、この反応は交感神経を外科的に切除すると消失することが確認されており、気圧変化が交感神経系の活動を介して身体反応を引き起こしている可能性が示されています(Sato et al., 1999)。痛みについての知見ではありますが、気圧の変化が自律神経を揺さぶるという仕組み自体は、だるさや気分の落ち込みといった訴えにも通じる部分があるように、私自身は臨床の中で感じています。もともとうつ病や不安症を抱えている方は、こうした天気の影響をより強く受けやすいとも言われており、油断できない話です。

低気圧と自律神経の乱れの関係を示した概念図イラスト

季節性のうつの治療①——光療法という第一選択

季節型のうつに対する治療の柱は、大きく分けて「光療法」「薬物療法」「精神療法」の3つです。中でも光療法(高照度光療法)は、多くのガイドラインで第一選択に位置づけられています。朝から日中の時間帯に、高照度の光を一定時間浴びるという、比較的取り組みやすい方法です。気分障害全般を対象とした複数の無作為化比較試験をまとめた解析では、季節性のうつに対する高照度光療法の効果量は、多くの抗うつ薬の臨床試験で示される効果量に匹敵することが報告されています(Golden et al., 2005)。薬に抵抗がある方にとっても、選択肢として検討しやすい治療法だと感じています。

季節性のうつの治療②——薬物療法と、CBT-SADという精神療法

薬物療法としては、SSRIなどの抗うつ薬が用いられることがあります。効果の実感には多少の時間がかかることが多く、光療法と並行して検討されることも少なくありません。

そして、あまり知られていないかもしれませんが、季節型のうつに特化した認知行動療法「CBT-SAD」というプログラムも存在します。一般的なCBTで用いられる、考え方の偏りに働きかける手法や、気分が乗らないときこそあえて活動量を保つ「行動活性化」といった要素を、季節性のパターンに合わせて組み立て直したものです。冬に対して「また今年も動けなくなる」といった悲観的な予期を強めてしまう考え方のクセに、少しずつ働きかけていくイメージです。光療法とCBT-SADを直接比較した無作為化比較試験の追跡調査では、治療直後の改善度合いは両者でほぼ同等だったものの、2回目の冬を迎えた時点での再発率は、光療法群の45.6%に対しCBT-SAD群では27.3%にとどまったことが報告されています(Rohan et al., 2016)。光療法は続けてこその治療である一方、翌年以降も毎冬欠かさず継続するのは現実的に難しいという事情もあり、こうした違いが生まれるのかもしれません。どちらか一方を選ぶというより、その人の生活リズムや性格に合わせて組み合わせを考えていく、というのが実際の臨床に近い感覚です。

朝の光が差し込む診察室で医師が患者の話を穏やかに聞いているイラスト

天気の日ごとの不調とは、どう付き合えばいいか

季節型のうつほどはっきりした周期性がなく、雨の日・低気圧の日にだけ気分やだるさが崩れるという場合には、まず生活リズムと自律神経を整えることが基本になります。睡眠時間を大きく崩さないこと、無理のない範囲で体を動かすことなど、地道な対策ではありますが、決して軽視できません。ただ、天気の悪い日だけでなく、気分の落ち込みがそれ以外の日にも続くようであれば、話は変わってきます。季節型のうつに限らず、通常のうつ病や他の疾患が背景に隠れている可能性も否定できないため、そのときは自己判断で「天気のせい」と片付けずに、一度相談していただきたいと思います。

「雨の日は気分が沈むのも仕方ない」という感覚そのものは、決して間違っていません。ただ、その中に診断がつきうる状態が隠れていることもあれば、診断名はないけれど体の仕組みとして実在する不調が隠れていることもあります。どちらであっても、「気のせい」で片付けてしまう必要はなく、それぞれに合った対処法・治療法があります。。

参考文献

  • Rosen LN, Targum SD, Terman M, et al. Prevalence of seasonal affective disorder at four latitudes. Psychiatry Res. 1990;31(2):131-144.
  • Golden RN, Gaynes BN, Ekstrom RD, et al. The efficacy of light therapy in the treatment of mood disorders: a review and meta-analysis of the evidence. Am J Psychiatry. 2005;162(4):656-662.
  • Rohan KJ, Meyerhoff J, Ho SY, Evans M, Postolache TT, Vacek PM. Outcomes One and Two Winters Following Cognitive-Behavioral Therapy or Light Therapy for Seasonal Affective Disorder. Am J Psychiatry. 2016;173(3):244-251.
  • Sato J, Morimae H, Seino Y, et al. Lowering barometric pressure aggravates mechanical allodynia and hyperalgesia in a rat model of neuropathic pain. Neurosci Lett. 1999;266(1):21-24.
  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition (DSM-5). Washington, DC: American Psychiatric Publishing; 2013.

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