クリニックからのお知らせ
精神科は血液検査もないのに、何を根拠に診断しているの?――ヤスパースの「了解」から考える|新宿 心療内科 シティライトメンタルクリニック
【心療内科・メンタルクリニックも診療中】
不眠・うつ・ADHD・発達障害など、当日予約・夜22時まで対応。
「精神科は血液検査もレントゲンもないのに、いったい何を根拠に診断しているのだろう」。診察室で、そんな疑問を直接ぶつけられることがあります。もっともな疑問だと思います。今日は、精神科医が患者さんの状態をどう捉えているのか、その考え方のルーツも含めて、できるだけ噛み砕いてお話ししてみます。
「話を聞く」ことにも、実は専門的な型がある
精神科の診察は、雑談のように話を聞いているだけに見えるかもしれません。しかし実際には、症状の出方・経過・きっかけとなった出来事などを、ある型に沿って丁寧に聴き取っています。この「心の異常な体験や状態を、丁寧に記述し理解しようとする」学問領域を、精神病理学と呼びます。血液検査の数値のように誰の目にも同じ形で見える指標がない代わりに、精神科医は患者さんの語りそのものを、観察と理解の対象にしているのです。
100年前の問い――ヤスパースの「了解」と「説明」
この考え方の土台には、100年以上前の一冊の本があります。ドイツの精神科医であり哲学者でもあったカール・ヤスパースが1913年に著した本で、日本語では『精神病理学総論』などの書名で知られています。ヤスパースはこの本で、心の動きを捉える方法として「了解(Verstehen)」と「説明(Erklären)」という、性質の異なる二つのアプローチを区別しました。
了解とは、患者さんの内側で起きていること(感情や考え、行動)に医療者が寄り添い、「なぜそう感じ、そう考えるに至ったのか」を、一人の人間の心の動きとして筋道立てて理解できることを指します。一方の説明は、そうした心理的なつながりでは理解しきれず、脳の機能といった因果的な仕組みで捉える必要がある場合を指します。ヤスパースのこの著作は、症状を記述するための方法論を明確に示したものとして、出版から100年以上を経た今も精神医学の基礎として評価されています(Nardi et al., 2013)。
「筋が通っているか」を確かめる、という診療の核
以前、「誰かに見られている気がする」と訴えて来院された方がいました。話を伺っていくと、直前に大きな心理的ストレスがあり、極端な睡眠不足も続いていたことが分かりました。事情を順にたどれば、その感覚が生まれた背景には、人としての心の動きとして筋が通ったつながりが見えてきます。これが、了解できる体験です。
一方で、背景をどれだけたどっても、心理的な糸口が見つからない体験もあります。ヤスパースは、こうした「了解の及ばない」体験を統合失調症などの精神病水準の状態を考える手がかりの一つとしました。ただしこれは、症状が一つ当てはまれば即座に診断が決まるという単純な図式ではなく、了解できるかどうかという視点は、現在でも患者さんの体験を丹念に見立てる際の重要な着眼点の一つとして位置づけられています(Hayashi et al., 2021)。
今の診療にも息づいている考え方
「了解」「説明」という枠組みは、特定の病名を機械的に振り分けるための基準ではありません。精神科医が患者さんの状態を理解し、それをカルテに記述したり、他の医師と症例を共有・議論したりするための、いわば共通言語として今も息づいています。現代の診断では、こうした理解に加えて、経過や生活への支障度、生物学的な知見なども合わせて総合的に評価しています。
「医療者が汲み取った患者さんの気持ちが、一人の人間の心の動きとして筋が通っているかどうか」を確かめる。考えてみれば当たり前のようですが、これは精神医学の歴史の中で明確に言葉にされ、今の診療にも受け継がれている大切な視点です。ご自身やご家族の状態について、気になることがあれば、一人で抱え込まずお気軽にご相談ください。
参考文献
- Nardi AE, Freire RC, Machado S, Silva AC, Crippa JA. A hundred-year of Karl Jaspers’ General Psychopathology (Allgemeine Psychopathologie)–1913-2013: a pivotal book in the history of psychiatry. Arq Neuropsiquiatr. 2013;71(7):490-492.
- Hayashi N, Igarashi Y, Harima H. Delusion progression process from the perspective of patients with psychoses: A descriptive study based on the primary delusion concept of Karl Jaspers. PLoS One. 2021;16(4):e0250766.
シティライトクリニック 心とからだ|新宿 西武新宿駅徒歩1分
こころのお悩み、まずはご相談ください
不眠・うつ・不安・ADHD・発達障害|当日予約・即日診断書・夜22時まで診療
WEB予約はこちら →