性感染症内科

クラミジア感染症は細菌の一種クラミジア・トラコマティスによる性感染症です。男女ともに発症し、日本で最も患者数の多い性病の一つです。

感染している人との性的接触（主に膣性交や肛門性交、オーラルセックス）によってうつります。また、感染者の母親から新生児への産道感染が起こる場合もあります。

男性では尿道炎により排尿時の痛みや尿道から膿状の分泌物が出る症状が現れます。女性ではおりもの（膣分泌物）の増加や不正出血、下腹部の痛みなどがあります。しかし男女とも自覚症状がない場合も多く、特に女性では約半数が症状に気づかないとされています。

症状が軽くても治療せずに放置すると、細菌が生殖器の奥まで広がります。男性では精巣上体（睾丸につながる部分）に炎症を起こし不妊につながることがあり、女性では子宮や卵管まで感染が進行し骨盤内炎症疾患を引き起こして将来的な不妊症の原因となります。またパートナーへ感染を広げる恐れもあります。ただし早期に適切な抗生物質治療を受ければ完治し、こうした合併症を防ぐことができます。

性器カンジダ症はカンジダ属の真菌（カビ）による感染症です。カンジダ菌自体は普段から皮膚や粘膜に存在する常在菌ですが、疲労やストレス、抗生物質の使用などで膣内の菌バランスが崩れると増殖し発症します。性交渉でパートナー間でうつるケースもあります。

性交など性的接触による感染が一因となる場合がありますが、性行為がなくても体調不良や免疫低下で発症することがあります。他の性感染症とは異なり、必ずしも性行為由来とは限りません。

女性では強い外陰部のかゆみや灼熱感、酒かす状・カッテージチーズ状とも表現される白く濁ったおりものの増加が典型的です。外陰部が赤く腫れて痛み、排尿時や性交時にしみることもあります。男性は症状が出ないことも多いですが、パートナーからうつった場合には亀頭や包皮にかゆみや赤い発疹が出たり、白いカスが付着することがあります。

放置すると不快な症状が続くだけでなく、掻き壊して皮膚に傷ができ二次感染を起こす恐れがあります。また感染が慢性化して再発を繰り返し治りづらくなることもあります。まれに免疫力が極度に低下した場合には、カビが血流に乗り全身性カンジダ症に進展するリスクも指摘されています​。適切な抗真菌薬で治療すれば比較的短期間で症状は改善し、再発予防も可能です。

淋菌感染症は淋菌（Neisseria gonorrhoeae）という細菌による性感染症です。古くから「淋病」として知られる代表的な性病の一つです。

主な感染経路は性的接触（膣性交・肛門性交・オーラルセックス）です。感染者との粘膜接触によって尿道や子宮頸管、直腸、咽頭などに菌が侵入します。また妊婦が感染している場合、出産時に新生児へ感染し新生児の結膜炎を起こすことがあります。

男性では感染後数日の潜伏期を経て尿道に激しい痛みが生じ、排尿時に強い痛み（排尿痛）や膿のような黄色い分泌物が尿道から出る症状が現れます​。女性では膣から膿性のおりものが増えたり、不正出血や下腹部の痛みが起こることがあります。しかし女性の淋菌感染症も自覚症状がない場合が多く、気付かないうちに進行することがあります。

治療せず放置すると症状がさらに進行し、男女とも生殖器の深部まで菌が広がって前立腺炎や卵管炎を発症し、不妊症につながるリスクが高まります。また感染が全身に及ぶと関節炎や心内膜炎、敗血症、髄膜炎など命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。特に咽頭や目に感染した場合は喉の炎症や失明のおそれもあるため注意が必要です。淋菌は抗生物質で治療可能ですが、耐性菌も増えているため早期受診と完治確認が重要です。

ヒト免疫不全ウイルス（HIV）への感染によって起こる疾患で、進行すると後天性免疫不全症候群（エイズ=AIDS）を発症します。ウイルスが免疫細胞に感染して破壊するため、体の免疫力が徐々に低下していくのが特徴です。

主な感染経路は感染者との性的接触（膣性交・肛門性交・オーラルセックス）です。精液や膣分泌液、血液中にウイルスが多く含まれ、性行為で相手の粘膜や傷口から体内に入ります。このほか、ウイルスが混入した血液の輸血や注射針の共用による血液感染、HIV陽性の母親から胎児・乳児への母子感染（胎盤・出産時・母乳）が起こる場合もあります。

感染後2～6週頃に発熱、のどの痛み、全身の倦怠感、筋肉痛・関節痛などインフルエンザに似た急性症状が出ることがあります。この初期症状は「急性HIV感染症」と呼ばれますが、一時的で自然に治まる場合も多いです。その後は数年にわたり無症状の期間が続きます（この間もウイルスは体内で増殖しています）。さらに免疫力の低下が進行するとエイズを発症し、日和見感染症（健康な人ならかからないような感染症）や悪性腫瘍を合併して、発熱、体重減少、下痢、肺炎、カポジ肉腫（皮膚の悪性腫瘍）など様々な症状が現れます。

**HIVに感染しても適切な治療を受けなければ、いずれエイズを発症します。**エイズ発症により免疫力が著しく低下すると、生命に関わる合併症を次々と引き起こすようになります。具体的には重篤な肺炎や結核、脳炎、悪性腫瘍など命に直結する病気のリスクが高まります。現在HIVそのものに対する根治療法はありませんが、抗HIV薬（抗レトロウイルス療法）の適切な継続服用によって体内のウイルス量を抑え込み、エイズ発症を防ぎ長期にわたり健康を維持することが可能です。

梅毒トレポネーマ（Treponema pallidum）という細長いらせん状の細菌による感染症です。一昔前には激減しましたが、近年日本で患者数が増加している性感染症として注意喚起されています。

主な感染経路は性的接触で、感染者との性交やオーラルセックスなどで皮膚や粘膜の小さな傷口から細菌が侵入します。稀にキスやオーラルセックスでも口の中の傷から感染する場合があります。また梅毒は母子感染することがあり、妊娠中の感染では胎盤を通して胎児にうつり先天梅毒を起こす恐れがあります。

梅毒の症状は進行段階によって変化します。感染から3週間前後で第一期の症状として、菌が侵入した局所（性器やその周辺、口唇など）に痛みのない小さなしこりや潰瘍（硬性下疳〈こうせいげかん〉）が現れます。しこりは治療しなくても数週間で自然に消えてしまいます。その後、2～3か月経過すると第二期に入り、菌が血液に乗って全身へ広がるため全身の皮膚に発疹が出現します。特に手のひらや足の裏に赤いバラ疹（ばらしん）と呼ばれる特徴的な発疹が生じるのが典型です​。発熱や倦怠感、リンパ節の腫れを伴うこともあります。これらも数週間で消えるため放置されやすいですが、治癒したわけではなく体内に菌が潜伏しています。症状のない潜伏梅毒期を経て、さらに数年〜十数年後に第三期に進行すると体の各所にゴムのような腫瘤（ゴム腫）ができたり、第四期では心臓や大動脈が侵される心血管梅毒や、中枢神経が侵され認知症様の症状が出る神経梅毒に至ることもあります。

治療せずに放置すると、長い経過の中で菌が脳や心臓など重要な臓器にまで達し、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。最終的に麻痺や認知機能の障害、心疾患を発症し、死に至るケースもあります。また妊婦が梅毒に感染していると流産や死産のリスクが高まったり、胎児が先天梅毒に感染して生まれる恐れがあります。梅毒は進行性の疾患ですが、細菌ですので早期に適切な抗生物質（ペニシリン系薬）治療を受ければ完治が可能です。症状が消失しても自己判断で治療を中断せず、医師の指示通り十分な期間治療することが重要です。

咽頭クラミジアは、クラミジア・トラコマティス菌が喉（咽喉部）に感染したものです。性器クラミジアと同じ細菌が原因ですが、オーラルセックスによって喉の粘膜にうつることで発症します。

感染者とのオーラルセックスによる咽喉部への接触が主な経路です。例えば、性器クラミジアに感染している人の性器を口で刺激した場合などに喉へ菌が移行します。ディープキスでうつる可能性は極めて低いとされています。

多くの場合、自覚症状はありません。統計的に90%以上の人が無症状で経過するとされています。症状が出る場合は喉の違和感や軽い痛み、腫れ、乾いた咳など風邪に似た症状にとどまり、見た目にも喉に明らかな異常が現れないことがほとんどです。そのため一般的なのど風邪と勘違いされやすく、感染に気づかないケースが非常に多くなっています。

咽頭クラミジア自体が重篤化することはまれですが、放置して菌が増殖すると咽頭炎や扁桃腺炎など本格的なのどの炎症を引き起こす可能性があります。また、中耳炎など耳の病気を併発する例も報告されています​。**しかし何よりも注意すべきは、感染に気付かず放置することで他者への感染源となってしまうリスクです。**自分に症状がないままパートナーにうつしてしまい、相手が重い合併症を患うおそれもあります。咽頭クラミジアは自然治癒しないため、のどの違和感が続く場合やリスク行為に心当たりがある場合は検査を受けて適切な抗生物質治療で治すことが大切です。

膣トリコモナス症はトリコモナス原虫（Trichomonas vaginalis）という寄生性の微生物（原虫）が性器に感染することで起こる性感染症です。単細胞の原虫が膣や尿道で増殖し炎症を引き起こします。

性交渉（膣性交）が主な感染経路です。トリコモナス原虫は主に膣内に寄生しており、性交時に膣分泌液を介してパートナーへうつります。まれに下着やタオルの共用で間接的に感染する可能性も指摘されていますが、基本的には性的接触が原因です。

女性では悪臭の強い黄緑色のおりものが増加し、陰部や膣内に激しいかゆみや灼熱感が生じます。膣粘膜がただれて性交痛を伴うこともあります。男性の場合、半数近くは無症状ですが、尿道から泡状の薄い膿が出たり軽い排尿時痛を感じることがあります。症状が進行すると男性では尿道炎や前立腺炎、女性では外陰膣炎を起こして痛みが増すことがあります。

トリコモナス感染も治療しなければ自然に治ることはほとんどありません。放置すると女性では炎症が子宮や卵管へ広がり、**不妊症や早産・流産の原因となることがあります。**男性でも慢性的な前立腺炎など生殖器の炎症を引き起こす可能性があります。さらにトリコモナス感染により性器の粘膜バリアが損なわれるため、他の性感染症（HIVや淋菌など）に感染しやすくなるリスクも指摘されています。なお感染者でも約2～5割は自覚症状がないとされ、知らずにパートナーに感染させるケースもあります。膣トリコモナス症は抗原虫薬の内服で治療可能なため、放置せず治療することでこうしたリスクを避けられます。